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夜更けの雀荘だった。
南郷は、久々にやってきた店で知った顔を見つけた。
「安岡さん」
「久しぶりだな。なんだい南郷さん、まだこんなとこにいるの? 知らないぞ」
たしなめるような安岡の口ぶりに、思わず愛想笑いで返す。
「いや、俺はもう……。今日は付き合いでして」
「ご友人ですか? いやーもう南郷さん強いんだもの、参っちゃいますよ」
「そんな、たまたまだろ」
以前は真剣に打っていた麻雀だが、今は本当に遊びでしか打たない。確かに南郷は、それなりに雀力はあるのだろうが、下手に自信があったからこそ、ずるずるとギャンブルの世界にのめり込んだとも言える。
「勝ってんの?」
「ええ、まあ。もう終わりですから」
「どうだい、この後」
「あ、いいですよ」
「南郷さん、勝ち逃げですかー」
「悪いがちょっと借りるよ」
文句をいう南郷の後輩に、安岡は伝家の宝刀――警察手帳をちらりと見せる。
思わず固まる面々。
「ちょっと、勘弁してくださいよ安岡さん……変な噂立っちゃうじゃないですか」
にやりと笑い、南郷の肩をぽんぽん叩く。それから周りの連中にも言う。
「冗談だよ、この男は友人でな。ちょっと話があるんだ」
◇◆◇◆
「アカギですか」
「心当たりないかい?」
「いや、俺はあの晩別れたきりで……」
安岡は南郷の横顔をじっと見つめた。
誘ったのは安岡だが、南郷は自分がおごるといって、馴染みの店に向かった。だがあいにくカウンターしか開いていなかった。
日本酒とお通しが運ばれてくる。安岡が銚子を傾け、南郷は杯を受けた。
「あんたはうまく足を洗ったな――ギャンブルから」
「ええ、まあおかげさまで」
「俺の方は……どうにもこうにも、な……」
安岡は単なる刑事ではなく、暴力団にも通じている悪徳刑事。当然賭場などにも顔がきくようであるが、自分自身、賭け事にハマって首が回らない状況らしい。
銚子が何本か倒れる頃には、安岡もすっかり酔いが回っているようだった。
「――悪かったな、景気の悪い話、聞かせちまったようで」
「いえ、そんな」
なぜか南郷の方が恐縮するが、安岡の顔は案外明るかった。
「まあ、だが例えアカギ本人がいなくても――まだまだやれるさ、俺は」
「えっ? どういう意味ですか」
しかし安岡は答えない。にやっと笑い、煙草に火をつける。そして、急に真面目な顔になった。
「ところで南郷さん――あんた、もしかしてアカギと」
「えっ」
「いや……いいんだ」
安岡は手にした猪口を飲み干し、席を立つ。
「じゃあ、俺は行くよ。ごっそさん」
「え、ええ」
一人残される南郷。酔いも手伝ったのか、重いまぶたを閉じる。
(あの人は……今もアカギの幻影を追っているのか)
隣客のウイスキーの氷が溶け、からんと鳴る。ふっと目を開けるが、再び意識は朦朧としてくる。
裏の賭博世界に鮮烈に舞い降り、消えた中学生――アカギ。
南郷の命を救った夜。狂気の夜をともに過ごした。しかしそれも過去のことである。
残った酒を一気に飲み干す。全身に血がめぐる気がして、南郷は立ち上がった。
(――帰ろう。家に)
店の外に出る。明るい朧月夜だった。
再びアカギのことが心に浮かんだが、今はもう、その顔がよく思い出せなかった。
了
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