◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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――夕方。
仕事帰りの客で治の店が賑わってくる頃。
治は忙しそうに厨房とテーブルを往復していたが、馴染みのメンツと卓を囲んでいた仲井が、上着を着て席を立つのを見て声をかける。
「あれ、どこか行くの?」
「ああ、ちと『平和』くるけん、頼まれ事たい」
仲井は古巣の雀荘の名前を出した。今晩はずっとここにいるのかと思っていた治は、思わず尋ねた。
「遅くなる?」
治の顔をちらっと見てから、仲井は頷いた。治は入り口に立てかけてあった黒いこうもり傘を差し出す。
「これ、お客さんの忘れ物だからさ、使ったら?」
「そんなん、いらん。かさばってしゃあない」
「天気予報、夜は雨って言ってたぞ?」
心配そうに念押しする。仲井は振り返る。
「そんなにかからん」
「だって、濡れたら風邪ひくだろ……」
仲井は煙草を取り出しながら、そっけなく答えた。
「いらんて」
一本を吸い付け、再び入り口に向かってそのまま出て行く。
ドアに付けられたカウベルが低い音を立てる。
「店長、フラれちゃったの?」
「なんだい、ダンナは浮気か?」
「そんなんじゃないですよ」
からかう常連を適当にあしらいながらも、つい、一人言ちてしまう。
「なんでああ頑固かな、もう」
治は口を尖らせ、厨房に入った。
□■□■
降り出した雨粒は、あっという間に筋となり仲井の頬を伝った。手のひらで顔を拭うと、埃混じりの匂いがする。
春の雨。冷たくないのが救いだが、雨は嫌いだ。
思ったよりも遅くなってしまった。しかし今ならまだ、治は閉店の作業をしているかもしれない。
当たり前のように彼のところに泊まることが増えたが、席料無しではいまだに気が引ける性分。曲がりなりにも、店の手伝いでもしないことには、落ち着かない。
――雨に降られたと知られたら、また文句を言われるだろう。
だが、怒る治の顔も悪くないと思っている。以前に、治が職場の先輩の前で見せた、何かを諦めたような、おどおどとした態度。あれよりはよっぽどいい。
それに何より、怒るときは、自分を見ている。
――たとえば自分が死んだら、治は泣くのだろうか。
心配され、構ってもらうことに馴れてきている。それでも、麻雀をしていないとき、会えない時は、常に治について考えている。どこまでも試してみたくて仕方がない。尋ねたいことも、らちの開かぬ馬鹿馬鹿しいことも、治ならなんと答えるか。言葉を、顔を、仕草を想像している。自分はおかしいのだろうとも思う。
商店街の軒下から雨垂れが滝のように落ちる。激しくなった雨は、足元で白い飛沫に変わっていく。仲井は角を曲がった。
「あ」
黒い傘を差し、更にもう一本を手にした治と鉢合わせする。
「――遅いよ」
「ああ……店は?」
「もう今日は誰もいないよ。閉めてきた」
「ほうか」
少し怒ったような口調で治は傘を差し出した。
仲井は黙って受け取る。
「びしょびしょ」
非難を込めた声音。なにも言い返さずにいると、治が頭上に傘をかざす。
束の間、雨が途切れ、仲井は生き返ったような気持ちになる。
「早く傘差せって」
「傘なんか、いらんちゅうたろ」
「またガンコして……濡れてんじゃないか」
「だからおいは」
傘を握る治の手に、自分の手を重ねる。
「治はんがいればいいたい」
「は? 何言ってんだよ……」
だが治も、それ以上反論はしなかった。狭い傘に、二人並んで帰途につく。
「帰ったらすぐシャワーしろよ」
「それはわからんばい」
「なんでだよ!」
「クク……」
雨の音は増々激しくなる。
脇を通る車のテールランプが道路に赤くにじみ、治の横顔も一瞬照していく。
そこには仲井の一番好きな表情があった。
背中を散々に濡らしてはいたが、仲井は、雨が好きになれそうな気がしていた。
(了)
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私、「純平」の強気な治がものすごく好きなんですが、「恋人」になったせいかその頃の強気な治が出てきてる感じですごく嬉しいです!