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スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

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朧月



夜更けの雀荘だった。
南郷は、久々にやってきた店で知った顔を見つけた。

「安岡さん」
「久しぶりだな。なんだい南郷さん、まだこんなとこにいるの? 知らないぞ」

たしなめるような安岡の口ぶりに、思わず愛想笑いで返す。

「いや、俺はもう……。今日は付き合いでして」
「ご友人ですか? いやーもう南郷さん強いんだもの、参っちゃいますよ」
「そんな、たまたまだろ」

以前は真剣に打っていた麻雀だが、今は本当に遊びでしか打たない。確かに南郷は、それなりに雀力はあるのだろうが、下手に自信があったからこそ、ずるずるとギャンブルの世界にのめり込んだとも言える。

「勝ってんの?」
「ええ、まあ。もう終わりですから」
「どうだい、この後」
「あ、いいですよ」
「南郷さん、勝ち逃げですかー」
「悪いがちょっと借りるよ」

文句をいう南郷の後輩に、安岡は伝家の宝刀――警察手帳をちらりと見せる。
思わず固まる面々。

「ちょっと、勘弁してくださいよ安岡さん……変な噂立っちゃうじゃないですか」

にやりと笑い、南郷の肩をぽんぽん叩く。それから周りの連中にも言う。

「冗談だよ、この男は友人でな。ちょっと話があるんだ」


◇◆◇◆


「アカギですか」
「心当たりないかい?」
「いや、俺はあの晩別れたきりで……」

安岡は南郷の横顔をじっと見つめた。
誘ったのは安岡だが、南郷は自分がおごるといって、馴染みの店に向かった。だがあいにくカウンターしか開いていなかった。
日本酒とお通しが運ばれてくる。安岡が銚子を傾け、南郷は杯を受けた。

「あんたはうまく足を洗ったな――ギャンブルから」
「ええ、まあおかげさまで」
「俺の方は……どうにもこうにも、な……」

安岡は単なる刑事ではなく、暴力団にも通じている悪徳刑事。当然賭場などにも顔がきくようであるが、自分自身、賭け事にハマって首が回らない状況らしい。

銚子が何本か倒れる頃には、安岡もすっかり酔いが回っているようだった。

「――悪かったな、景気の悪い話、聞かせちまったようで」
「いえ、そんな」

なぜか南郷の方が恐縮するが、安岡の顔は案外明るかった。

「まあ、だが例えアカギ本人がいなくても――まだまだやれるさ、俺は」
「えっ? どういう意味ですか」

しかし安岡は答えない。にやっと笑い、煙草に火をつける。そして、急に真面目な顔になった。

「ところで南郷さん――あんた、もしかしてアカギと」
「えっ」
「いや……いいんだ」

安岡は手にした猪口を飲み干し、席を立つ。

「じゃあ、俺は行くよ。ごっそさん」
「え、ええ」

一人残される南郷。酔いも手伝ったのか、重いまぶたを閉じる。

(あの人は……今もアカギの幻影を追っているのか)


隣客のウイスキーの氷が溶け、からんと鳴る。ふっと目を開けるが、再び意識は朦朧としてくる。

裏の賭博世界に鮮烈に舞い降り、消えた中学生――アカギ。
南郷の命を救った夜。狂気の夜をともに過ごした。しかしそれも過去のことである。

残った酒を一気に飲み干す。全身に血がめぐる気がして、南郷は立ち上がった。

(――帰ろう。家に)



店の外に出る。明るい朧月夜だった。
再びアカギのことが心に浮かんだが、今はもう、その顔がよく思い出せなかった。



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