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スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

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おはよう

恋人編かなー
別のタイトルでも良かったかも 「地の獄」とか

◇◆◇◆



 身体が重い。
 先に進もうとするが、足が縺れてうまく歩けない。

(なに……たい……)

 仲井は唐突に気がつく。そうだ、ここは、地獄の底なのだ。身体が動かせないのも当然。なぜなら得体のしれない雑魚連中が仲井を捕らえ、行かせまいと必死に阻んでいる。中には、見知った顔もある。自分のイカサマ仲間。カモにした連中。雀荘のメンバー。常連客。今は姿を見せなくなった過去の人間もいる。みな仲井の周りでひしめき合い、互いの足を引っ張り合っている。
 仲井には、これは夢なのだと解っている。
 だが、そもそも、自分は何処へ行こうとしていたのか。

 うねり。
 この熱さは人の熱だ。
 ギャンブルという炎に炙られた人間たちの、いつ果てるともない熱が、仲井を翻弄する。
人によっては醜いと感じるだろう。だがその熱気の中で、仲井は次第に自分の体勢を御し始め、身体の自由が効くようになっていた。

(おいは進めるとよ)

 だが、相変わらず身体は重く、それでいて何かが足りないのだった。ふと気がつくと、目の前に白く透き通った糸が、ふわりと垂らされていた。

 糸はか細く、気高く、真っすぐに天へと続く。仲井は無意識に手を伸ばした。
 摑んだその糸は、思いの外強靭に、仲井の体重を支える。

(よし、いける………!)

 仲井はその糸を登り始めた。
 自分の行くべき道。有象無象からの脱却。そんな期待を胸に、一手一手、ゆっくりと登っていく。彼と同時に、他のギャンブラー達も後に続く。だが、そんなことは気にならなかった。この先にたどり着くのは自分が一番先であるはずだから。

 何気なく上を見上げる。
 そこに広がっていたのは、青く高くどこまでも澄み切った空。
 しかし、空であるはずのその青は、地獄の熱気に揺らめき、揺蕩っていた。
 
(彼処は……) 

 途端に、空は海へと変貌する。 仲井は恐れた。
 青い海は、底知れぬ暗黒を内包しながら、眩しく誘う。深海――あの空の先に待ち受けているのは、決して極楽などではないのだ。頭上の海底には、間違いなく、異形の怪物が、獲物を喰らおうと待ち構えている。

 それでも、抗えない。
 自分の前に示された、一筋の道。あの大海原、ギャンブルの根源に続く光をたぐり寄せるように、一心に登っていく、登ってしまう。 博徒の血が、そうさせるのだろうか。ただ、自身の破滅を賭けてでも、彼処にたどり着きたい。見上げる空はあまりに遙か――。

 気がつけば、ここまで登って来たのは自分ただひとり。
 見下ろした地上には相変わらずの有象無象が波打つように蠢いている。

 それがひどく心細く、おかしな気分だった。ひとりであることの喪失感を感じるのに、何故そんな気持ちになるのかわからないのだ。自分はそんな人間だったろうか? ずっと前から、ずっとこの後も、自分は唯ひとりであった筈。いや、そうあるべきで。それなのに。
 疑問を振り払うように、再び登り始める。一手先の糸だけを見つめて一心に登る。だが、何かの気配を感じ、ふとその手を止める。そしてもう一度空を見上げた。

(眩しか……)

 仲井は目を細めた。そして霹靂のごとく己の限界を感じる。
 自分には無理だった。到底登り切ることはできない。しかし、今ここで戻れば再び地の獄……。
 行くも帰るもできない硬直状態。そのとき、耳朶に馴染んだ声が囁いた。

「おはよう」

 ぷつん、と糸が切れる。あ、と思う暇もなかった。

(……!)
 
 瞬間、仲井は真っ逆さまに落ちた。いや、引き戻されるといった感覚に近かった。
 眩しく感じたのは、顔に差した陽の光。清々しいまでの朝。
 仲井はゆっくりと眼を開ける。
 着地したのは、ギャンブラーの犇きあう獄底ではなかった。
 見慣れた低い天井。自分の部屋だ。夢から目覚め、当たり前の世界にただ戻ってきただけのこと。

(ばってん、ここもまた――)

 指先には糸が切れた時の微かな感覚が残っている。そして、自分がなぜ喪失感を感じていたのか、すぐに思い至る。
 仲井が、焦点の合わぬ表情のまま、掌を結んだり開いたりしているのを見て、上から覗き込んだ恋人がクスッと笑った。

「なんだよ、夢の中でもサイコロ振ってるのか?」

 寝そべったまま、目の前の顔に手を伸ばし、頬を包むように触れる。仲井がこうするときの常で、治はくすぐったそうな笑顔を浮かべた。

「ん……、何?」

 その甘えるような声が、自分の身体を重く満たしていく。充足感で、蕩けてしまいそうだった。
 これではとてもあの糸を登ることはできそうにない。そう思いながら、仲井は獄卒の愛しいそばかすをそっと撫でた。






(了)




お題こちらより頂きました:確かに恋だった
URL:http://have-a.chew.jp/


それは甘い20題
04.おはよう
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