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居酒屋編
微糖っていうか甘じょっぱい話
◇◆◇◆
なりゆきで仲井のアパートに転がり込むことになった治。麻雀打ちと料理人見習い、二人の同居生活が始まった。
夕飯には少し早い時間だった。寝転んで雑誌を見ていた仲井に、「できたよ」という声をかけると、途端に起き上がった。部屋中が煮物の香ばしい匂いに満ち、腹を空かせていたためだろう。治は鍋から大皿に大根を盛り付けた。
「ほう、風呂吹き大根たい」
「うん。味見してみてよ」
食卓に着いた仲井は、大根にすっと箸を入れ、あしらえてあった味噌と一緒に口に運ぶ。期待に満ちた目が見つめているのを尻目に、仲井は眉をひそめた。
「ん~」
「え、変な味だった?」
途端に困った顔になる治を掠め見ると、仲井はもったいぶるように言った。
「味自体は、悪くなか。ばってん、中まで味が染みこんでなか。しかもこれ煮崩れてるとよ。おいはもうちっと固めのほうが好みたい」
治の表情が険しいものに変わる。
「味が染みてないのはいいけど……なんでお前の好みに合わせなくちゃいけないんだよ」
「今はおいが客たいね。客の好みもわからん店は流行らんばい」
「それはそうかもしれないけどさ」
(店なんてまだまだ先の話なのに)
試食に付き合ってくれるのはいいが、一言多いのがいちいち頭に来るのだ。
「味噌はうまかとよ、味噌は。こりゃ飯がなきゃ始まらんたい。……っと、居酒屋のメニューだったたいね。治はん、酒は?」
「あるわけ無いだろ!」
「なんちゅう店たい、ここは」
おかしそうに笑いながら立ち上がり、炊飯器に残っていた白飯をよそい始める。言いたい放題の仲井を見送ると、治は自分でも大根を口にしてみた。
(……なんだよ。結構いけるじゃないか。確かに……柔らかいけど。これじゃダメなのかな)
戻ってきた仲井は、再び大根に箸を伸ばす。難癖をつけるわりに、食欲旺盛な同居人の無骨な指先を見つめながら、治は思った。
(そういえば、いつも文句言う割に、こいつって、オレの作った料理、残したことないよな)
煮崩れた部分にまで味噌をつけ、器用につまみ上げる。指先の感覚が命の麻雀打ちなら何でもないことだろうが、普段の豪快な物言いとは裏腹の、丁寧なその箸遣いが、少し意外に思えた。ふと、仲井と目が合う。
「……何たい、人のことじっと見て」
「え? べ、別に」
「ははーん、さては反省して、もう一度作り直すつもりたいね。しょうがなか、協力してやるたい」
「そんなわけないだろ。もう材料がないよ」
「じゃあ、酒で勘弁してやるたい」
「だからないって」
一緒にいる時間が長くなった分、仲井の言動にも慣れてきた。そしてどうやら仲井は、わざと自分をからかっているのでないだろうかという節があった。
ただ、それならそれで、いつか仲井に、掛け値なしにうまいと言わせてみたいような気持ちにもなっている。そんなことを考えながら、無意識に、仲井と同じように煮崩れた小さな大根の欠片に味噌を乗せ、口に運ぶ。
(うーん……。今度作る時は、煮る時間を少なくしてみようか。逆に保温時間を長くすれば味も染みるし仲井も気に入る……って! そうじゃなくて! いや、つまり、煮崩れたら見栄えも悪いし! 店で出す時にさ……いつか)
味噌に混ぜたゆずの味が広がると同時に、治は、仲井のペースにのせられている自分に気づくのだった。
(了)
お題こちらより頂きました:確かに恋だった
URL:http://have-a.chew.jp/
それは甘い20題
03.指先
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