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またしばらく旧作でお茶を濁す作戦
「野良猫」「寒夜」「大晦日」をつなげた話(HPバージョン)です
【ガッツリエロ入ってるよ! 注意】
◇◆◇◆
年末の雰囲気は苦手だ。
そわそわと、追い立てられる気分になる。
博徒だのギャンブラーだのといえば様にもなるが、要はその日暮らしの素寒貧なのだ。
全財産を賭けた勝負に破れ、実際に文無しになったこともある。
そして更に苦手なのが正月だった。
自分もツケの支払いなどにも追われるが、金の動きの多い暮れは、稼ぎどきでもある。
しかし、さすがに正月は、頼みの雀荘も休みのところが多い。現在とは違い、食料の調達一つとっても、男所帯には悩みのタネである。
(やっぱり――行くしかなか)
どっちみち治はずっと店にいるはず。
都合のいい時だけふらりと立ち寄る。治は嫌な顔をしないし、一緒に食事をするだけでも、近ごろは前にも増して楽しそうだった。だが、それが――いたたまれない。
(まるで……野良猫たい……)
自虐的な連想が頭を掠める。
以前の自分だったらそんな殊勝なことを思っただろうか。治に惹かれているからこそ、かえって後ろめたいのかもしれなかった。
ドアを開ける。
「あ、仲井、いらっしゃい」
懸想相手は、掛け値なしの笑顔で出迎えてくれた。
まいったな、と思う。
◇◆◇◆
夜。
一年の営業を終え、治の店は短い正月休みに入った。
店舗の明かりが落とされる。居残った仲井と店主は、店奥の部屋で、既に体を重ねていた。
壁を背にして、口による奉仕を受ける。
好きな相手が目を伏せ、一心に自分のモノをしゃぶっているというのは、肉体的な快楽以上に、嗜虐心が刺激される。
そして治の方も、自分の愛撫によって相手が猛る感覚を純粋に楽しんでいるらしい。ときおり、仲井の表情を伺っている。
髪に手を差し込むと、治は決まって開いた方の指を絡めて来るか、腕に縋る。仲井は治の頭を撫でながら尋ねる。
「こうやって……されるの、好きなんか?」
「……ん」
上目遣いでちらっと仲井の顔を見て、銜えたまま頷く。
堪らない、と思った。
自分の反応は治にも分かっているはずで、添えた手に軽く力を込められたのを感じる。互いに煽られ高まっていく――。まるで心が繋がっているように。
「あかん……」
仲井は治の頬に手を滑らせ、そっと囁く。
「そんな顔見てたら、すぐにイってしまうたい」
雄身を引き抜く。
「えぇっ……ん~……」
上体を起こして座ったが、不満顔の治。仲井が達しなかったのが不服だったらしいが、正座を崩し少しもじもじしている。
頬と、それから半開きの口元を撫でる。
「そんな顔しなくても、ちゃんと可愛がってやるたい」
「そ、そうじゃなっ……」
顔を近づけ、唇を塞ぐ。口淫の後だったせいか、治は少し驚く。だが仲井が反対の手を急所に伸ばすと、目を閉じてすがりついてきた。
「……ぁ……はぁ……」
攻めるときは意外なほど巧みだが、自分が攻められるとすぐに没頭する。多分感じやすいのだろうが、治のそういうところも仲井は好きだった。
時折漏れる息と、すでに固くなっていた分身が仲井を急き立てる。そのまま後孔に指を進め、ゆっくりと解し、指を中で踊らせた。たまらずに腰を浮かせた治を、自分の上に座らせる。
「――自分で、塗るか?」
頷き、とろんとした目をして油薬を塗り込める姿を見ていると、淫靡な気持ちになる。
「治……」
「――?」
名を呼び、腰を持ち上げてやる。固くなった雄身を突き立てれば、治は自重で深く貫かれた。
「んっ……あぁん……」
座位のまま、ゆっくりと動き出す。初めての体勢だったが、治はすぐに愉悦の場所を探り当て、自分からも腰を動かした。
「あっ……それ……気持ち……あぁっ……」
いつもより乱れている気がするのは、久しぶりだったからか。会えなかった分、快楽が増すということはあるのだろうか。互いに、幾分早く絶頂が見えた気がした。
「っ……」
「なか……いっ……!」
首に回された腕に力が入る。腹に数回感じる、ぬるい感触。自分の名を呼んで達する相手を見ながら、仲井は力の抜けた細い腰を掴み、最後に深く突き上げた。
◇◆◇◆
暖房は消したから、じっとしていると寒さが忍んでくる。煙草を吸い終えた仲井は、布団に入った。口元まで布団に潜った治が、体をすり寄せて囁く。
「仲井、しばらく来なかったね」
「ああ――忙しかったからたい」
「それはわかってるけど……。なあ。――俺に会いたかった?」
(う……)
一瞬なんと答えていいものか、詰まる。会いたかったに決まってる。しかし、そういうことは口にすべきなのかどうなのか?
何度体を重ねても、この手の会話には、いつまで経っても慣れることがない。情事の最中ならまだしも、素に立ち返ったときには、どうしてもダメだった。仲井には治を探ることしかできない。
「な、なんでそげなこと聞くたい」
「なんでって」
治はあくびをした。年の瀬の、一年の疲れが一気に出たのかもしれない。
「俺も、仲井に会いたかったからさー」
「えっ」
眠そうに言う。
横抱きしてやれば、治は胸元でつぶやく
「ずっと……仲井と……したかったよ……」
「し、したかったて――」
ぬけぬけとそんなことを言われれば、一瞬、天にも昇る心地になる。
しかし。
(ん? 待つたい)
言葉の裏の裏を読む。仲井に染み付いた博徒の癖が、余計な猜疑心を揺り起こす。
(それって、いわゆる……体目的ってことじゃ……なかと?)
もぞもぞと動く治。髪が仲井の顎をくすぐる。
「仲井の体……あったかいなー……」
「おいは――ネコかなんかじゃなか!」
「んー、何言ってんのさ……ふわぁ……おやすみ」
仲井の答えを待たず、とっとと眠りにつく治。
無防備なようでいて、本当に何を考えているのかわからない。
実は自分よりも格段にストレートな男に、仲井は今夜も悩まされるのであった。
◇◆◇◆
明くる日。
「よしっ晴れたーっ! 起きて起きてっ!」
「な、何たい」
「何って、大掃除に決まってるだろ」
「えぇーっ、今から?」
「そうだよ。昨日まで店開いてたんだから仕方ないじゃないか。ホント、仲井来てくれて良かった」
この笑顔にはもう騙されないぞ、と後悔してももう遅い。
「やっぱり、おいは使われてるだけたい……」
手を引かれて起き上がり、恨めしそうに繰り言を呟く。
しかし小さな店で、日頃の手入れも行き届いている為、実際それほどの手間はなく、掃除は午前中にあらかた終わってしまう。
昼食を兼ねて買出しに出かけたあと、二人はのんびりとした午後を過ごした。
「――さて、そろそろ夕飯作るか」
広げた帳簿を片付け、治が腰を上げた。
新聞を読みながら煙草を吸っていた仲井も、後を追い厨房の方に行く。
「そういや腹減ったたい……」
食材を用意しながら治が尋ねる。
「仲井ってさ、自分じゃ料理しないの?」
「男がそんなんできるわけなか――と言いたいところやが」
治の方をちら、と見る。
もちろん、彼相手にそんな主張は全く無意味である。
「――まあ、作れと言われれば」
「ふーん」
治はニンジンを手渡す。
「じゃ、皮むきお願い」
「ああ」
一人なら面倒で、絶対に台所に立つことなどしなかっただろう。が、こういうのも案外悪くない、と思う。
治は横で、しきりに目をこすりながら玉ねぎをモタモタ切っている。
厨房は狭いから、仲井までなんだか鼻奥がツンとしてくる。
器用に包丁を使いながら、仲井は尋ねる。
「で、これ。何ができるたい」
「カレーだよ」
「カレー?」
「うん」
確かにこの手順はカレー以外の何ものでもなかった。しかし。
「大晦日にカレーて……」
「あれ? カレー好きって言ってなかった?」
「え? あ? そげなこと――」
そういえば、昼食の時にそんな話をしたような気もしたが……どうだったか。
治はガスに火を入れる。
「肉いっぱい入れるからねっ」
「あ、ああ」
「俺もカレー好きなんだよね、だから丁度よかったなーって」
そんなことを嬉しそうに言う。仲井は掠めるように治の顔を見た。
◇◆◇◆
「……なんちゅーか」
夜更け。
食後の一服をしながら、仲井が素直な感想を述べる。
「あんまり年越しって気分やないたい」
「そうかなあ」
治はあまり気にしていないようだった。
「一応、そばは買ってあるけど? カレーそば、する?」
「――いや、いいたい」
「きっと明日の方が美味しいよなー」
(元旦もカレー……さすがにそこまでカレー好きじゃなか……)
仲井は複雑な気持ちになるが、果たして、これまでの正月はどうだったか。
たいした記憶がない。
常に人を蹴落とすことを考えてきた自分に安穏は無縁。ここまでゆったりした気持ちで年を越すことなどなかったかもしれない。
――除夜の鐘が聞こえてくる。
煩悩は消えることはなさそうだが、殺伐とした気分は束の間、忘れられた気がする。
「じゃ、お腹もいっぱいになったし」
治は立ち上がった。
「初詣、行こうよ」
「え」
「ほら、早く」
「あ、ああ」
再び手を引かれ、腰をあげる。
明日をも知れぬ浮草稼業、神頼みなど性に合わない、が。
今なら何か願ってもいい――。
仲井はそんな気持ちになった。
(了)
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