◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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「灰色」と対になる話です。
あいかわらずなグダグダ系。
またこういう話か……って感じ。
好きなんだ。
空眺めたり眺めなかったり覗いたり覗かれたりするのが。
□■□■
寮を出て、空を見上げる。雨雲はところどころ切れて、陽光が差してきていた。烏が何度か鳴き、頭上を飛び去った。
「あ、ホントに雨止んでる。よかった……」
治はホッとするような気持ちになり、早くタバコを買ってこなくては――と思った。しかし次の瞬間、そう考える自分を戒める。
(何考えてんだよ、オレ。情けない)
同じ寮の先輩、川島にタバコを買ってくるように言われ、渋々外に出たのだった。
元はといえば、こんな使い走りのようなこと、やらなければいいだけの話。だが、それが断れるくらいだったら初めから苦労はしない。
川島たちはいつも強引だった。賭け麻雀の時も、治は無理やりメンツに加えられたあげくに負け、今月もほとんど手元に金はなかった。
職場の先輩に誘われたら断りようがない。いっしょに打つ先輩たちは勝ったり負けたりしているが、たいていは治ひとりが給料を巻きあげられる形に終わっている。
(しょうがないよ、オレが麻雀弱いんだから)
どうせ断れない性格なら、麻雀に強くなればいい。そんな理屈は自分をすら納得させられない。それに、納得したからと言って気分が晴れるわけでも、金が戻ってくるわけでもなかった。
川島たちにこき使われるような生活。
治にはその苦しみを分かち合うような同僚もいなかった。誰もが先輩たちの新しい標的にされたくはないのだ。
こんなことがいつまで続くのだろうか。
見通しは暗い。工場と寮とを往復する毎日。どこにも逃げ場はない。
(――ま、先のことなんか、考えたってしょうがないよな)
ため息混じりの深呼吸をすれば、雨上がりの空気の匂いがした。
あんな薄暗い部屋で川島の相手をしているなら、こうやって外に出かけて正解だったかもしれないと思う。
なじみの売店でタバコを一箱買う。店番のおばあさんは、しかめっ面で小銭を受け取った。
「……またあんたかい。子どもがタバコなんか吸っちゃいけないよ」
「オレは頼まれただけですから。それにオレ、子供じゃないんで」
「はいはい、おつりね。落とすんじゃないよ」
(くそっ、子供じゃないって!)
ひったくるようにおつりを受け取ったので、おばあさんは驚いたような顔をする。
(あ……)
罪悪感がちらりと掠める。
(い、いつも同じことばっかり言うからだよ!)
胸の内で言い訳をしながら、治はお釣りをポケットにしまい、振り返った。
「あ!」
思わず声が出ていた。
「虹だ……」
重たかった雲はすでに地平の向こうに押しやられていた。明るく澄み切った冬空を喜ぶかように、中空から地上へと大きな虹が架かっている。
「こりゃ大きいね」
治の声に、おばあさんまで身を乗り出して眺めている。
「ええ……」
治は歩き出した。
始めはうっすらと光っていたプリズムが、治が眺めているうちに、やがてくっきりとした色合いへ変化する。まるで歩いて登れそうだ、と治は思った。
(あの虹の上からなら、遠くまで見えるかな)
足を進めながら、時折虹を眺めて埒もない空想にふける。
あそこに立ったらどこまで見えるのだろう。自分の今いる場所は、どんな風に見えるのだろう。
(……って、何考えてんだよ、オレ。ホントに子供じゃあるまいし)
虹はそのうちに薄くなり、寮に帰る頃にはほとんど見えなくなっていた。
束の間の光の気まぐれに、治はどこか得をしたような気分だった。
部屋に戻ると、それほど遅れたつもりもなかったが、なぜか川島は苛立っていた。
「遅えよ! タバコ買うのにどこまで行ってんだよ」
「すみません……」
「やっぱり釣りも返せよな。遅ぇんだしよ」
「ええっ? ………………わかりました」
まさか虹に見とれていたとも言えず、治はあわててタバコと釣りを差し出した。
(了)
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