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佐原の話。
CPなし
◇◆◇◆
夜半からの暴風が去った朝、街はある種の混乱状態だった。
街路には色づく途中だった葉が散らされて積り、歩く度にぐちゃぐちゃと水を噴いた。側溝にも葉といっしょにゴミや枝が詰まっている。そして何より耐えられないのは、あたりには逆流したドブの臭いが漂っていることだった。
掃除に追われている近所の奥様連中を見て、「大変だな」と他人事のような感想を持つが、コンビニに着いたら自分も同じ作業が待っていることに気づき、佐原はげんなりとした。
向こうからやってくる老夫婦が寄り添うように歩いている。普段なら気にも止めない光景。濡れた落ち葉に足を取られないようにゆっくり進む二人を、走ってきた小学生が追い抜いた。
学校へ行く途中なのだろう。冬晴れの空のもと、靴が濡れるのも気にせず息を弾ませすれ違う姿に、かつては自分も確実にあんな風だった、ということに思い至ってしまう。
振り返ってその姿を目で追い、なぜか取り残されたような気分になる。そしてもう一度前方にいる二人に意識が行った。
目の前の老人たちと自分が同じ種類の人間だなどと考えなくもない。
自分の将来。そんなものを具体的に描いたことなどなかった。だからこその、この怠惰な毎日とも言える。あまつさえ、年老いた自分など、途方もなくかけ離れた未知の存在。
――だが。
生ぬるい平凡。世間並みの幸せ。積み重ねた人生に、無意識に感じてしまう淡い憧れ。そして同時に、やっぱりそんなモノはいらない、と肩をそびやかす。
鼻が慣れたのか、拡散したのか、ドブの臭いが薄れてくる。佐原はバイト先へ足を早めた。
◇◆◇◆
「おかしいッスねー」
「どうせまたカイジだろ、夕べあいつのシフトだからな」
「あー、そうなんスかね?」
佐原が精算の時に小金をちょろまかすのはいつものことだった。店長が本社の意向に逆らって最新式のレジを導入しないため、多少の訂正がきくのだ。店長は無愛想な同僚の計算ミスだと信じて疑わなかったから、時々利用させてもらっている。そして金額が合わない時には店長がレシートなどを操作して、更に売上をごまかして自分の懐に入れていることにも気づいていた。おそらく、その事もあって融通の聞かない新型機をリースしないのだろう。
(ったく、セコイ野郎だぜ。まあ、俺も人のこと言えねえか)
店長のピンハネに比べれば、自分の小銭など鼻クソ程度のものである。とばっちりをうけている同僚に悪いとも思わなかった。ただこれは佐原の勘であるが、どうやらその男も一癖ある人間のようなのだ。普段は気弱に見えるが、時々現れる表情に、カタギの人間と違った凄みがある。あれが殺気というものだろうか。
それでも、余程金に困っているのかバイトを辞めたくないのか、店長に見当違いの嫌味を言われても反論一つしない。諾々と従っているのがかえって不気味だった。
「――じゃ、俺、時間なんであがりますね。お先ーッス」
店の外はすっかり夜。昼間には眩しいくらいのピーカンだったのに、日が落ちると温度は急激に下がり、マフラーがあってちょうどいいくらいの冷え込みだった。
佐原はふと空を見上げ、おもむろに手を伸ばす。そして薄墨色の夜に煌く星を握りしめる。
だが、電線ごと掴んだつもりの光が、掌から逃げていく。星かと思ったそれは、飛行機のライトだったのだ。瞬く光をしばらく見つめていたが、飛行機はビルの向こうに消えた。
(届かない、やっぱり)
握ったままの拳を下ろしてそっと広げる。空っぽの手。
世間の底から見る空は、光は、あまりにも遠い。自分のようなドブネズミが望んではいけない存在だとでもいうかのように。
冗談じゃねえ、と思う。そっちが逃げるなら、何がなんでも掴みに行ってやる。
あの星を。
たとえこの身を焦がし、空から落ちることになっても。
自分を奮い立たせ、一服しようと思って服を探るが、手に触れるのはライターだけ。自販機が目に留まり先程の金を数えてみるものの、煙草を買うには少し足りなった。
「くそっ」
佐原は自販機を蹴飛ばした。
(了)
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