◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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ラブシーンあり・軽め。性格に妄想設定含みます。
「治はん」
「んー?」
コーヒーを飲みながら、仲井が尋ねる。ちょうどお客さんが帰ったところで、俺は洗い物を片付けていた。
「今、欲しいものとかないんか?」
「ん? ああ、丁度砂糖切らしてるんだよね。買い物行ってくれるの?」
いくら客が居ないからといって、そうそう店を開けるわけにはいかない。
仲井がときどき店の手伝いをしてくれるのは、非常に助かることだった。
このまま店に入ってくれればいいのに、と思うこともあるけど、やっぱりこれ以上甘えるわけにはいかないよな。
仲井には仲井の事情もあるだろうし、俺も一応遠慮しているつもり。
しかしヤツは妙なことを言った。
「いや――そういうことやなしに。貰ったらうれしいもの、ないんか。ほれ、おなごやったら花とかケーキとか、あるばい」
「は? オレは欲しいものなんかないけど……あー、プレゼントってこと? 誰か誕生日なの?」
「誰か……って。いや、もういい」
なんだか怒ったように話を打ち切ってしまう。
「なんだよ、誰にあげるんだって」
「だから、もういいたい。ごっそさん」
そして、そのまま店を出ていってしまう。
「なに、あれ?」
てっきり、誰かに贈り物をする相談かと思えば。
でも、仲井がああいう風に怒るこのパターン……もしかして、俺に?
ってことはないよなあ。
だって本当に誕生日でもなんでもないもの。
結局そのあと、仲井は砂糖を買って戻ってきたんだけど、プレゼントの話題を蒸し返すこともなく、俺自身もすっかり忘れていた。
――そして今日。
相変わらず客は少ない。というか、そういう時間帯だった。
何気なく広げた新聞。飛び込んできたのは、大きな広告だった。
『今日は愛の日 バレンタインデー 恋人への贈り物にはチョコレートを添えて―― ◯△デパート』
えっ……!
俺は一瞬固まる。
そこには、西洋の習慣で、二月十四日、愛する人に手紙を送ったりプレゼントをするらしいことが書いてあった。もしかしてこれ――?
そう考えた瞬間に、自分でも赤面するのがわかった。はー……、一人でよかった。
「ったく――仲井のやつ」
いつも恋人とか言うと、めちゃくちゃ嫌がるくせに、自分の方が相当恥ずかしいじゃないか……。
と、このタイミングでお客さんが来る。
「いらっしゃいませ」
見知った顔の常連さんたちだった。マナーもいい優良客の人たち。
――あ。そうだ。
「あの、すみません……。俺、買い物あるので、ちょっとだけ店お願いしてもいいですか?」
「いいよ、勝手にやってるから、ゆっくり行ってきなっ」
「すみませんっ、すぐ戻ります!」
優しい言葉に甘えて、俺は駆け出して行った。
◇◆◇◆
「仲井、これ食べない?」
「なんや、そげな甘いもん……客にでも貰たか?」
「違うよ」
――夜。
仲井が店に顔を見せないから、俺はアパートを訪ねた。
軽めの晩酌の最中、持ってきたチョコレートを渡す。
「バレンタインデーっていうんだろ、今日」
「ふーん。――そうなんか」
ホントは知ってるくせに。素直じゃないんだから。
手を出そうとしない仲井の代わりに、俺は一つをつまみ上げる。
チョコを歯で銜え、そのまま仲井の口の前に持っていく。
「……!」
仲井はちょっとためらった後に、首を傾げて受け取った。俺、こうすればきっと食べる、って知ってるから。
額をつけて、どう? って聞く。
「あ、甘ったるい……たい」
「恋人の日、なんだってさ」
仲井は黙って口をもぐもぐさせている。俺は首に手を回して言った。
「いつもありがとう」
とろけそうな匂いが漂ってくる。俺はそんなに好きじゃないんだけど、たまにはいいよな、お菓子も。
「お前――甘いもの好きだろ? 俺、知ってるんだからな」
仲井は無表情――だった。顔は少し赤かったが、酒のせい、かな。
そうして、視線をチョコと俺と交互にやりながら、しばらく黙ったあとに、ついに白状する。
「好きたい……。――好きだが」
顔が近づき、唇をかぷっと噛まれる。
「……っ?」
「『おまけ』の方が甘い、たい」
そう言われ、そのまま……。
俺は食われてしまった。
(おしまい)
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