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「あれ、休日なのに一人なの?」
「あ、主任」
治達の勤める沼田玩具。今日は機械も止まっている。主任は自分の家があるのだが、寮監として時々顔を見せる。 のぞいた部屋では、治が一人寝っ転がっていた。遊ぶ金など一銭もないのだから当然なのだが――。
「どうぞ」
治は起き上がって、座布団をすすめた。
「いや、こっちでさ、お茶入れたから一緒に飲むかい?」
治はややあって応える。
「――じゃ、伺います」
◇◆◇◆
「休みの日はみんないなくなっちゃうから静かだね」
治はお茶をすすりながら同意する。
「君は金欠かい? 給料出たばっかりなのに」
「――ええ、まあ」
「また、コレ?」
主任は両手で宙をつまむ。賭け麻雀で、治が先輩たちに給料をむしられたことをお見通しなのだ。治は答えなかった。
「若いうちはな、そうやっていろんな経験するもんさ」
優しい口調で言われても、治は表情を固くしたまま、うつむいている。しばらく後に、ぽつりと呟く。
「――いつ」
「ん?」
「だったら、僕はいつ、こんな……ことから」
言葉に詰まる治に、主任は大福を出してきて、慰める。
「まあ、食べなよ」
「でも……」
「僕一人じゃ食べきれないからさ」
「じゃあ、いただきます」
決まった食事以外、間食ひとつもできない状況は、若い治にとってはキツイ日々である。治は知らず知らずのうちに視界が滲んでくるのを感じた。そのことに気づいた主任も、あえて気づかないふりで、大福を買った店の話などをのんきそうに続けている。
しかし。
主任の優しさはありがたかったが――この涙は、悔しさから。
同情を受ける自分の弱さ、不甲斐なさに対するものだった。
治は考えていた。
(確かに先輩たちは強引だけど……そうじゃない)
年をとったから、経験を積んだから、うまくいくのではない。
――自分。
結局は自分がやるかやらないか。そして、勝つか負けるか、だ。
(俺、次は負けたくない)
そう考えた治は、生真面目に自分の打ち筋を反芻する。
(あそこで、ああ打っていれば……勝ちの目はあった……はず)
黙り込んだ治を心配そうに見ながら、主任は新しい話題を提供する。
「……そういえばね、明日から新しい子が入るよ。若いけど、なかなか落ち着いてて……」
「へぇ、そうなんですか」
寮住まいである工員たちにとって、今後、その新人とも密に関わることは多くなるだろう。自然、興味が湧く。
治は口の周りの粉を指で拭いながら、思った。
(どんな人だろう。仲良くやれればいいけど)
「あの……。もう一個、いいですか?」
主任は微笑んで皿を差し出す。
この新入りが、もう一段上の視点から物事を見せてくれる。
治を新しい世界に連れて行ってくれることになる――。
その時の治には、もちろん知るよしもなかった。
(了)
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