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スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

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暴力を思わせる表現あり(傷とか血とか)
ラブシーンあり・軽め






大寒だというのに、暖かい日だった。
二、三日前まで枯れ木のようであった川辺のネコヤナギまで、春を勘違いしたのか、芽吹きたそうにぷっくりとした膨らみをつけていた。川下から登ってくる南風はぬるく緩み、わずかに生臭い潮の匂いを含んでいる。

(世の中が――狂ってやがる)

矢木は眉を顰めて心の内で独り言つ。
アパートに戻ると、闖入者は最後に見たのと全く同じ位置で横になっていた。

いったい何をやらかしたのか、アカギは血まみれだった。夕べのうちに拭き取ったつもりだが、若干汚れが落ちきっていない気がする。もっとも本人は掠り傷ばかりで、大した怪我をしていないようだった。


「おい、腹減ってるだろ。食い物買ってきたぞ」

陽光の下に横たわるアカギ。
隙を窺い、その姿を見る。
うららかな日差しの中で、昼寝でもしているような顔。目を閉じていれば、そこらにいる学生と変わりない。ただ、なぜこの、自分の部屋にいるのか。背景だけがそぐわないと思った。


「――寝てるのか?」

アカギは目を開けた。気だるそうに上半身を起こし、つっ立ったままの矢木を見上げる。
「飲み物ある?」
「ああ」

(なんで俺がこんなこと……)

そう思いつつ、袋から栄養ドリンクを取り出して手渡す。

「何これ?」
「こういうの飲んだことないか? 手っ取り早く栄養補給するのにいいんだ」
「ふーん」

アカギはそのまま、何も言わずにフタを開け、中身を飲む。
矢木も隣に腰をおろし、同じものを口にする。
自分が舞い上げた埃が、午前中の光を反射しながら静かに積もっていく。
こんな薄汚れた部屋なのに、まるで雪の中にでもいるようだと思った。


「――何?」

目が合った。我知らず、アカギを見つめていたことに気づく。途端、矢木は動揺した。

「あ、いや……その……そこ、まだ血がついてるぞ」

頬にはまだ血の跡がうっすら残る。

「ん? ここ?」
「いや……こっち」

口元に伸ばしかけた手を、そのまま掴まれる。

「……っ!」

腕を握られているだけなのに、矢木の中に、諦めと――期待の交錯した熱が満ちていく。

「どうかしたの、矢木さん?」
「血……が……」

矢木にはその手が振り払えない。だから、ただ視線を逸らそうとした。しかしアカギはそれすらも許さない。反対の手で顎に指をかけ、矢木の顔を自分に向ける。

「う……」
「じゃ、あんたが拭いてくれよ。昨日みたいにさ」

アカギの口端がわずかに緩む。それは笑み――だったのか。

「手を離してくれ」
「駄目だ」
「それじゃ、拭けない」
「そんなこと、ないんだろ?」
「えっ」

くいっと顎を引かれる。目の前には、白い頬に残る鉄錆色の筋。

(なんで俺が……なんで俺が……ナンデオレガ……)

ちら、と瞳を見れば、アカギは瞬きもせず、冷徹に自分を眺めている。

(この目が……俺を……狂わせるのだ)

しかし逡巡は深遠に吸い込まれていく。そして――気持ちはなぜか高揚していく。
魅入られたように矢木は舌を出し、アカギの頬を舐めた。
潮の味がした。


「やっぱり――矢木さんは面白いな」
「何、が」
「ククク……」


心底楽しそうに笑うアカギ。惚けた様に口を開けたままの矢木。
アカギは褒美だと言わんばかりに、口付けてきた。栄養ドリンクの味。
それから舌が差し込まれる。矢木は目を閉じた。
恐る恐る貪れば、あたたかいそれは潮の味がした。なぜか、足りなかった隙間が満たされていくような気がした。

濃密な海がこの部屋まで、上がってきたからだと思った。



(了)
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