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暴力を思わせる表現あり(傷とか血とか)
ラブシーンあり・軽め
大寒だというのに、暖かい日だった。
二、三日前まで枯れ木のようであった川辺のネコヤナギまで、春を勘違いしたのか、芽吹きたそうにぷっくりとした膨らみをつけていた。川下から登ってくる南風はぬるく緩み、わずかに生臭い潮の匂いを含んでいる。
(世の中が――狂ってやがる)
矢木は眉を顰めて心の内で独り言つ。
アパートに戻ると、闖入者は最後に見たのと全く同じ位置で横になっていた。
いったい何をやらかしたのか、アカギは血まみれだった。夕べのうちに拭き取ったつもりだが、若干汚れが落ちきっていない気がする。もっとも本人は掠り傷ばかりで、大した怪我をしていないようだった。
「おい、腹減ってるだろ。食い物買ってきたぞ」
陽光の下に横たわるアカギ。
隙を窺い、その姿を見る。
うららかな日差しの中で、昼寝でもしているような顔。目を閉じていれば、そこらにいる学生と変わりない。ただ、なぜこの、自分の部屋にいるのか。背景だけがそぐわないと思った。
「――寝てるのか?」
アカギは目を開けた。気だるそうに上半身を起こし、つっ立ったままの矢木を見上げる。
「飲み物ある?」
「ああ」
(なんで俺がこんなこと……)
そう思いつつ、袋から栄養ドリンクを取り出して手渡す。
「何これ?」
「こういうの飲んだことないか? 手っ取り早く栄養補給するのにいいんだ」
「ふーん」
アカギはそのまま、何も言わずにフタを開け、中身を飲む。
矢木も隣に腰をおろし、同じものを口にする。
自分が舞い上げた埃が、午前中の光を反射しながら静かに積もっていく。
こんな薄汚れた部屋なのに、まるで雪の中にでもいるようだと思った。
「――何?」
目が合った。我知らず、アカギを見つめていたことに気づく。途端、矢木は動揺した。
「あ、いや……その……そこ、まだ血がついてるぞ」
頬にはまだ血の跡がうっすら残る。
「ん? ここ?」
「いや……こっち」
口元に伸ばしかけた手を、そのまま掴まれる。
「……っ!」
腕を握られているだけなのに、矢木の中に、諦めと――期待の交錯した熱が満ちていく。
「どうかしたの、矢木さん?」
「血……が……」
矢木にはその手が振り払えない。だから、ただ視線を逸らそうとした。しかしアカギはそれすらも許さない。反対の手で顎に指をかけ、矢木の顔を自分に向ける。
「う……」
「じゃ、あんたが拭いてくれよ。昨日みたいにさ」
アカギの口端がわずかに緩む。それは笑み――だったのか。
「手を離してくれ」
「駄目だ」
「それじゃ、拭けない」
「そんなこと、ないんだろ?」
「えっ」
くいっと顎を引かれる。目の前には、白い頬に残る鉄錆色の筋。
(なんで俺が……なんで俺が……ナンデオレガ……)
ちら、と瞳を見れば、アカギは瞬きもせず、冷徹に自分を眺めている。
(この目が……俺を……狂わせるのだ)
しかし逡巡は深遠に吸い込まれていく。そして――気持ちはなぜか高揚していく。
魅入られたように矢木は舌を出し、アカギの頬を舐めた。
潮の味がした。
「やっぱり――矢木さんは面白いな」
「何、が」
「ククク……」
心底楽しそうに笑うアカギ。惚けた様に口を開けたままの矢木。
アカギは褒美だと言わんばかりに、口付けてきた。栄養ドリンクの味。
それから舌が差し込まれる。矢木は目を閉じた。
恐る恐る貪れば、あたたかいそれは潮の味がした。なぜか、足りなかった隙間が満たされていくような気がした。
濃密な海がこの部屋まで、上がってきたからだと思った。
(了)
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