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川沿いの道をぶらぶらと歩く。冬晴れの暖かい日だった。
仲井は足を止めた。
土手に寝っ転がっている白髪には見覚えがあった。
思わずそばに降りていく。歩くたび、枯れ草混じりの雑草が乾いた音を立てる。
「アカギ……はん」
「ん?」
昼寝の主は薄目を開ける。
「仲井か」
「へへ……」
仲井はアカギの隣に腰をおろした。ポケットの煙草を探るが、あいにく切らしていた。アカギが差し出した一本をもらう。
「すまんたい」
そう言って、自分とアカギの分の火を点ける。
「元気そうやな」
アカギは何も言わずに寝そべったまま煙を燻らす。
遠い川面で魚が跳ねる。二度、三度。
しばらく仲井は無心で眺めていた。
かつて。
自分をどん底にたたき落とした男の隣にいることを、束の間忘れていた。
アカギは突然言った。
「治は――元気か」
「えっ」
必要以上に大きな声を出していた。いつの間にかアカギは自分をじっと見つめている。この男はどうして、何でも見透かしたような瞳をしているのだろう。
「……あ、ああ、元気たい」
思い出したように煙草を口にやる。鼻から煙を吐き、それから仲井は聞いた。
「――会わんのか」
「ん?」
「治はんに」
アカギは再び黙る。聞いているのはこっちの方なのに、勝手に心がざわめいていく。息が詰まるかと思った瞬間、アカギが答えた。
「用がないからな」
ここに居ない人間のことを何時までも話題にするのは、卑怯な気がした。それでも、仲井は言葉を継がずにはいられなかった。
「治はんは――会いたがってたばい」
「あん?」
仲井の一種必死な表情をちら、と見て、アカギはのんびりと煙草を吸い込む。それから、目をつぶって煙を吐き出し、答えた。
「あいつは、そんなこと言わねぇだろ」
川面には、大きな川鵜が舞い降りる。光を反射する水面にあって、まるでそこだけ真っ黒な色を塗ったようだった。羽ばたく音がここまで聞こえてくる。仲井は小さくつぶやいた。
「そうだったかも――しれんたい」
無意味な敗北感。
自分は何を期待していたのか。この男に何と言って欲しかったのか――。
「はぁ~……」
仲井は大きくため息をつき、アカギと同じように寝転がった。
急に視界が開ける。
雲ひとつないどこまでも続く天蓋。
まるで空が落ちて来るようだった。
――この青は自分には眩しすぎる。
「目がくらみそうたい。あんさんは――いつもこんなものを見とるんか」
仲井が言うと、アカギは目を開け、空の奥底を見据える。
「フフ……まあ、そうだな」
煙草を吸い終えた仲井は立ち上がる。それから取り出した札を手渡す。
「煙草代」
「ああ――悪いな。文無しだったんだ」
仲井は呆れたようにアカギを見る。
「ホンマに、かなわんな――あんたには」
雑草を踏み分け、土手を登る。仲井はもう一度アカギの方を振り返る。
白い髪が揺れ、それから、自分の頬を暖かい風が撫でた。
(了)
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