◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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「井川君は旅行したりするの? 帰省とか?」
「あ、いや……」
「無理だろ、コイツの部署めちゃくちゃ忙しいから、正月なんかねーよ」
「マジで? 優秀だと大変だねー、かわいそう」
「はは……」
本当は忙しい方がいいんだ。余計なことを考えずにすむ。
だが、そんなことをここで言ってもしょうがない、よな。
半ば無理矢理付き合わされた飲み会。同期とは言っても、それほど話をしたことのない面々の中に放り込まれ、一人粛々と酒を飲む。
俺というヤツは、いつもこうだ。
周りに流され、自分のことさえも決められずにいる。
俺――これまで何か、自分で決めたことなんかあったか?
煙草を一本取り出し、マッチで火をつける。オレンジ色の炎がぼっと燃え上がり、紙が焦げる匂いが立ち込める。
「やっぱりハワイじゃない?」
「えー? ちょっとぉ、まだバブル気分?」
「香港や韓国がいいよ、今安いってよ」
「そう?」
話題はまだ旅行先についてだった。しかし、思わずつぶやいていた。
「ハワイか……」
「井川君もそう思う? ハワイ、いいよねっ?」
俺は答えず、煙草を口に持っていった。
そうだな、あの時はたしかに俺――。
自分の意志で。
何が何でも打ちたくて。
がむしゃらだった。
ハワイにいた赤木さんを拝み倒して……。
赤木さん。
天さん。
沢田さん。
――俺とは違う世界の人たち。
一秒一秒、気を抜けない熱い勝負の世界。
俺はあまりに無力だった。そして、自分の分を知った。
でも、だからといって、ここが俺の世界なのか。
会社員だからどうこう言うわけじゃないんだ。
だって現にこいつらは――なんというか――イキイキしている。
日々を積み重ねることに何のためらいもない。躊躇もない。だってそれはアタリマエのことだから。未来やこれからの予定を楽しそうに決める。
自分だけだ。どうにも――淀んでいるのは。
何とも言えない隔絶感。どうしてなんだろう。
俺はたなびく煙を見つめた。
家で酒を飲むのと違い自制しているから、それほど酔ってはいない。
いや、麻雀を止めた時から、俺は心を何かに預けることなどなかったかもしれない。
自分で決めたはずだったこの生活。
だけど本当は、天さんたちに勧められて……そのまま、賭博から足を洗ったのじゃなかったか。
――ふふ。今度は人のせいにしてるよ。ホント、俺っていつまでも……。
あの人は絶対にそんなことはしないよな。
自分にすべて由っている。
自由な人。
自由――。
赤木さん。
何故か抜けるようなハワイの空が浮かぶ。
俺はまだ吸い途中の煙草を灰皿に置き、机に突っ伏した。
酔いが一気に回ってくる。
「ハワイ、いいよねー……俺の……憧れの……」
「あれ。ちょっと井川くーん……。寝ちゃった」
「ほっとけほっとけ、あ、それ消しといてよ。それより二次会どこにする?」
店の主人に起こされるまでの、束の間の仮眠。
遠くなる同僚の声を聞きながら、俺は久しぶりに、青い空の夢を見た。
憧れの人は、静かに笑っていた。
了
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