忍者ブログ

スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

憧れの……





「井川君は旅行したりするの? 帰省とか?」
「あ、いや……」
「無理だろ、コイツの部署めちゃくちゃ忙しいから、正月なんかねーよ」
「マジで? 優秀だと大変だねー、かわいそう」
「はは……」

本当は忙しい方がいいんだ。余計なことを考えずにすむ。
だが、そんなことをここで言ってもしょうがない、よな。

半ば無理矢理付き合わされた飲み会。同期とは言っても、それほど話をしたことのない面々の中に放り込まれ、一人粛々と酒を飲む。


俺というヤツは、いつもこうだ。
周りに流され、自分のことさえも決められずにいる。

俺――これまで何か、自分で決めたことなんかあったか?


煙草を一本取り出し、マッチで火をつける。オレンジ色の炎がぼっと燃え上がり、紙が焦げる匂いが立ち込める。


「やっぱりハワイじゃない?」
「えー? ちょっとぉ、まだバブル気分?」
「香港や韓国がいいよ、今安いってよ」
「そう?」

話題はまだ旅行先についてだった。しかし、思わずつぶやいていた。

「ハワイか……」
「井川君もそう思う? ハワイ、いいよねっ?」

俺は答えず、煙草を口に持っていった。


そうだな、あの時はたしかに俺――。
自分の意志で。
何が何でも打ちたくて。
がむしゃらだった。

ハワイにいた赤木さんを拝み倒して……。


赤木さん。

天さん。

沢田さん。


――俺とは違う世界の人たち。


一秒一秒、気を抜けない熱い勝負の世界。
俺はあまりに無力だった。そして、自分の分を知った。


でも、だからといって、ここが俺の世界なのか。

会社員だからどうこう言うわけじゃないんだ。
だって現にこいつらは――なんというか――イキイキしている。

日々を積み重ねることに何のためらいもない。躊躇もない。だってそれはアタリマエのことだから。未来やこれからの予定を楽しそうに決める。

自分だけだ。どうにも――淀んでいるのは。
何とも言えない隔絶感。どうしてなんだろう。


俺はたなびく煙を見つめた。
家で酒を飲むのと違い自制しているから、それほど酔ってはいない。
いや、麻雀を止めた時から、俺は心を何かに預けることなどなかったかもしれない。


自分で決めたはずだったこの生活。
だけど本当は、天さんたちに勧められて……そのまま、賭博から足を洗ったのじゃなかったか。


――ふふ。今度は人のせいにしてるよ。ホント、俺っていつまでも……。

あの人は絶対にそんなことはしないよな。
自分にすべて由っている。
自由な人。
自由――。

赤木さん。


何故か抜けるようなハワイの空が浮かぶ。

俺はまだ吸い途中の煙草を灰皿に置き、机に突っ伏した。
酔いが一気に回ってくる。


「ハワイ、いいよねー……俺の……憧れの……」
「あれ。ちょっと井川くーん……。寝ちゃった」
「ほっとけほっとけ、あ、それ消しといてよ。それより二次会どこにする?」


店の主人に起こされるまでの、束の間の仮眠。
遠くなる同僚の声を聞きながら、俺は久しぶりに、青い空の夢を見た。
憧れの人は、静かに笑っていた。





PR

コメント

コメントを書く

お名前:
タイトル:
文字色:
メールアドレス:
URL:
コメント:
パスワード:   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

トラックバック

この記事にトラックバックする:

カテゴリー

最新記事

プロフィール

HN:
Indy
自己紹介:

ブログ内検索

アーカイブ

最新コメント

[09/10 NONAME]
[07/22 NONAME]
[03/31 NONAME]
[03/30 NONAME]
[05/24 Indy]

リンク

最古記事

(12/18)
(12/18)
(12/19)
(12/19)
(12/20)

フリーエリア

RSS

忍者アナライズ