◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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ラブシーンあり めっちゃ軽め
なんかちょっとどこかで見たようなオチに・・・
はわわ、ごめんなさい><///
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「調子どう? 氷持って来たぞ」
勝手にドアを開けて入る。部屋の中はむっとした熱気に満ちている。
「あれ? なんだ起きてるのか?」
「――おう」
夏風邪をひいたと電話で訴える仲井を見舞うため、仕事が終わるとすぐに駆けつけたのだった。
しかし仲井は、起き上がって麻雀牌を積んでいる。
「なんだ元気そうじゃない……でも、窓くらい開けろよ」
空気の入れ替えをしながら一人言葉を継ぐ。仲井の代わりにカチャカチャという聞き慣れた音が応える。
「あと――メロンじゃないけど、これ持って来た」
黄色くて丸い大ぶりの甘夏は、掌に収まりきらない。治は目一杯右手を広げて袋の中から果実を掴み出し、雀卓の上に置いた。積まれた牌が転げ、ぴくり、仲井の片眉が動く。
「なんね、それ。大きか」
「だろ?」
治が笑うと、仲井は「ケチついた」と座ったまま、ゆるゆると布団に戻る。
「あれ、どうした?」
横たわった背中に呼びかけても返事はない。
「なあ」
恋人の呼びかけに仲井は上を向く。牌を握っていたさっきと違い、どこか焦点も合わず、大儀そうな表情。
「え?」
仲井の額にそっと手を置く。通常よりも遥かに高い温度に、掌が痺れそうだった。
「! 熱、凄いんじゃないか。それだってのに、お前なにやってんだよ!」
「毎日触らないと、カンが鈍るたい」
「ったく……持って来て良かった、これ」
持参した氷枕の中身を詰めながら改めて部屋を見回すが、食事の跡もないようだった。
「まともに食べてないのか? ……ほら、冷たいだろ」
「っ!」
「気持ちいい?」
氷の袋を額に押し当てながら覗き込む治を一瞥し、満足そうに目を閉じる。だが仲井はもう一度目を開け、氷嚢を脇にやり、上半身を起こしかけた。頭痛のためなのか、少し顔を歪める。
「だ、だめだろ?! 寝てなくちゃあ」
「水」
「ああ。ちょっと待って」
受け取った氷水を一気に飲み、深く息を吐く。それから黄色い果実を指さした。
「――それえ」
「甘夏だよ、食べる?」
「ん~……」
仲井のすぐ横で治は、厚い皮にナイフを入れ、皮を剥こうと四苦八苦を始めた。治が房をつぶすと辺りには柑橘類の爽やかな香りが充満する。
ふと、自分をじっとみている仲井に気づく。
「寝てろって」
「いや……寝て、も一度起きる方がおっくうたい」
「そっか。じゃ、はい」
薄皮のない小房は、ところどころ潰れている。仲井が食べるのを見ながら、治は自分も味見をする。
「夏みかんより……甘いかな?」
指を舐めながら聞くと、仲井はうなずいた。
□■□■
「汗拭いてやろうか」
「……いや」
「拭いてやるよ」
食欲が無いのか、甘夏も数個食べただけでいらないと言う。手持ち無沙汰の治は、手ぬぐいを絞って戻ってくる。
顔や手は自分でやる、と言う仲井から手ぬぐいを受け取る。もう一度水で洗ってから、シャツを肌蹴けさせ、背中を拭く。
「はい、終わり」
下半身はどうしようかと考えながら、再びボタンを留める仲井の指先を見ていると、その手が途中で止まり、自分を引き寄せた。
「ん」
気がつけば、甘酸っぱい香りに貪られていた。いつものタバコの匂いとは違う、熱を孕んだ唇。強く掴まれた手首。
自然、煽られてしまうが、治は仲井を押して、文句をいう隙間だけは確保する。
「――馬鹿、やめろ。こんな時に」
「馬鹿で結構たい」
もう一度唇が、軽く音を立てる。部屋には二人の息遣いだけが響く。
治は自分の服に手をかけようとする相手を制した。
「だめ――だってば」
口を尖らせ、胸元を弄ぐる仲井の指をきゅっと握り返す。こっちも相当に熱い。
「もう寝ろって。早くカゼ治せよ。そしたら、ちゃんと……しよう?」
仲井は何か言いたげな表情を浮かべたが、それ以上強引なことはせず、もう一度治に口付けただけで大人しく横になる。
そしてすぐに仲井は寝付いたようだった。
もともと今夜は泊まるつもりであったが、治は眠らずに、なんとなく麻雀卓の前に座る。
仲井がやっていたように見様見真似で積み込みの練習を始めた。しかし仕事の疲れもあり、つい、意識が持って行かれる。
開いた窓から、外の音が聞こえる。
静かな夜だった。
虫の声と安らかな寝息。規則的なリズムは治の眠気を誘う。
そのまま卓に突っ伏してしまい、どれくらい経った頃か――。
仲井のうなされる声に、はっと目が覚めた。
「ん? 大丈夫か?」
「治……治っ……!」
「え?」
自分を呼ぶ切羽詰った声。
何か夢でも見ているのか。
「どうした?!」
「――治」
「ここにいるって」
仲井はうっすらと目を開く。自分を見ている――いや、見ていない。だが明らかに自分を探っている手を握ってやると、目の縁に穏やかな表情が浮かぶ。かつてこんな顔の仲井は見たことがなかった。ぎゅ、と握り返された熱い指先が少し白くなる。治は心が痛くなった。
「行くな……なあ……」
「どこにも行かないよ、俺は」
言いながら、そんな言葉は嘘だと思った。仲井もわかっているはずだ。永遠など虚構。未来も過去にも意味はなく、ただひたすらに現在という時を紡ぐだけ。それが紛れもなく、自分たちの生き方であった。
だが、今は。
間違いなく――ここに存在している。
互いの温度を共有するこの時間。
自分は仲井の隣にいるのだ、自分の意志で。
「俺、ここにいるよ」
治の声が届いたのか、仲井は目を閉じた。
リズミカルな寝息が聞こえてくるのを待って、そっと手を離す。タオルケットを掛け直してやり、隣で横になる。
開いた窓から、涼やかな虫の声が再び聞こえてくる。
「もう夏も終わりだな――」
治は一人つぶやいた。
(了)
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