忍者ブログ

スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

甘夏

ラブシーンあり めっちゃ軽め

なんかちょっとどこかで見たようなオチに・・・
はわわ、ごめんなさい><///



   □■□■




「調子どう? 氷持って来たぞ」

勝手にドアを開けて入る。部屋の中はむっとした熱気に満ちている。

「あれ? なんだ起きてるのか?」
「――おう」

夏風邪をひいたと電話で訴える仲井を見舞うため、仕事が終わるとすぐに駆けつけたのだった。
しかし仲井は、起き上がって麻雀牌を積んでいる。

「なんだ元気そうじゃない……でも、窓くらい開けろよ」

空気の入れ替えをしながら一人言葉を継ぐ。仲井の代わりにカチャカチャという聞き慣れた音が応える。

「あと――メロンじゃないけど、これ持って来た」


黄色くて丸い大ぶりの甘夏は、掌に収まりきらない。治は目一杯右手を広げて袋の中から果実を掴み出し、雀卓の上に置いた。積まれた牌が転げ、ぴくり、仲井の片眉が動く。

「なんね、それ。大きか」
「だろ?」

治が笑うと、仲井は「ケチついた」と座ったまま、ゆるゆると布団に戻る。


「あれ、どうした?」

横たわった背中に呼びかけても返事はない。

「なあ」

恋人の呼びかけに仲井は上を向く。牌を握っていたさっきと違い、どこか焦点も合わず、大儀そうな表情。

「え?」

仲井の額にそっと手を置く。通常よりも遥かに高い温度に、掌が痺れそうだった。

「! 熱、凄いんじゃないか。それだってのに、お前なにやってんだよ!」
「毎日触らないと、カンが鈍るたい」
「ったく……持って来て良かった、これ」

持参した氷枕の中身を詰めながら改めて部屋を見回すが、食事の跡もないようだった。

「まともに食べてないのか? ……ほら、冷たいだろ」
「っ!」
「気持ちいい?」

氷の袋を額に押し当てながら覗き込む治を一瞥し、満足そうに目を閉じる。だが仲井はもう一度目を開け、氷嚢を脇にやり、上半身を起こしかけた。頭痛のためなのか、少し顔を歪める。


「だ、だめだろ?! 寝てなくちゃあ」
「水」
「ああ。ちょっと待って」

受け取った氷水を一気に飲み、深く息を吐く。それから黄色い果実を指さした。

「――それえ」
「甘夏だよ、食べる?」
「ん~……」

仲井のすぐ横で治は、厚い皮にナイフを入れ、皮を剥こうと四苦八苦を始めた。治が房をつぶすと辺りには柑橘類の爽やかな香りが充満する。
ふと、自分をじっとみている仲井に気づく。

「寝てろって」
「いや……寝て、も一度起きる方がおっくうたい」
「そっか。じゃ、はい」

薄皮のない小房は、ところどころ潰れている。仲井が食べるのを見ながら、治は自分も味見をする。

「夏みかんより……甘いかな?」

指を舐めながら聞くと、仲井はうなずいた。



□■□■



「汗拭いてやろうか」
「……いや」
「拭いてやるよ」

食欲が無いのか、甘夏も数個食べただけでいらないと言う。手持ち無沙汰の治は、手ぬぐいを絞って戻ってくる。
顔や手は自分でやる、と言う仲井から手ぬぐいを受け取る。もう一度水で洗ってから、シャツを肌蹴けさせ、背中を拭く。

「はい、終わり」

下半身はどうしようかと考えながら、再びボタンを留める仲井の指先を見ていると、その手が途中で止まり、自分を引き寄せた。

「ん」

気がつけば、甘酸っぱい香りに貪られていた。いつものタバコの匂いとは違う、熱を孕んだ唇。強く掴まれた手首。
自然、煽られてしまうが、治は仲井を押して、文句をいう隙間だけは確保する。

「――馬鹿、やめろ。こんな時に」
「馬鹿で結構たい」

もう一度唇が、軽く音を立てる。部屋には二人の息遣いだけが響く。
治は自分の服に手をかけようとする相手を制した。


「だめ――だってば」

口を尖らせ、胸元を弄ぐる仲井の指をきゅっと握り返す。こっちも相当に熱い。

「もう寝ろって。早くカゼ治せよ。そしたら、ちゃんと……しよう?」

仲井は何か言いたげな表情を浮かべたが、それ以上強引なことはせず、もう一度治に口付けただけで大人しく横になる。

そしてすぐに仲井は寝付いたようだった。
もともと今夜は泊まるつもりであったが、治は眠らずに、なんとなく麻雀卓の前に座る。

仲井がやっていたように見様見真似で積み込みの練習を始めた。しかし仕事の疲れもあり、つい、意識が持って行かれる。
開いた窓から、外の音が聞こえる。
静かな夜だった。
虫の声と安らかな寝息。規則的なリズムは治の眠気を誘う。

そのまま卓に突っ伏してしまい、どれくらい経った頃か――。
仲井のうなされる声に、はっと目が覚めた。


「ん? 大丈夫か?」
「治……治っ……!」
「え?」

自分を呼ぶ切羽詰った声。
何か夢でも見ているのか。

「どうした?!」
「――治」
「ここにいるって」

仲井はうっすらと目を開く。自分を見ている――いや、見ていない。だが明らかに自分を探っている手を握ってやると、目の縁に穏やかな表情が浮かぶ。かつてこんな顔の仲井は見たことがなかった。ぎゅ、と握り返された熱い指先が少し白くなる。治は心が痛くなった。


「行くな……なあ……」
「どこにも行かないよ、俺は」

言いながら、そんな言葉は嘘だと思った。仲井もわかっているはずだ。永遠など虚構。未来も過去にも意味はなく、ただひたすらに現在という時を紡ぐだけ。それが紛れもなく、自分たちの生き方であった。

だが、今は。
間違いなく――ここに存在している。
互いの温度を共有するこの時間。
自分は仲井の隣にいるのだ、自分の意志で。


「俺、ここにいるよ」

治の声が届いたのか、仲井は目を閉じた。
リズミカルな寝息が聞こえてくるのを待って、そっと手を離す。タオルケットを掛け直してやり、隣で横になる。


開いた窓から、涼やかな虫の声が再び聞こえてくる。

「もう夏も終わりだな――」

治は一人つぶやいた。



(了)


PR

コメント

コメントを書く

お名前:
タイトル:
文字色:
メールアドレス:
URL:
コメント:
パスワード:   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

トラックバック

この記事にトラックバックする:

カテゴリー

最新記事

プロフィール

HN:
Indy
自己紹介:

ブログ内検索

アーカイブ

最新コメント

[09/10 NONAME]
[07/22 NONAME]
[03/31 NONAME]
[03/30 NONAME]
[05/24 Indy]

リンク

最古記事

(12/18)
(12/18)
(12/19)
(12/19)
(12/20)

フリーエリア

RSS

忍者アナライズ