◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。
◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。
◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意
定休日が祭りの日と重なったのは、偶然だった。もっとも、雀荘を開いたところで、売上に変わりはなかったろう。飲食店なら花火に客を取られるということもあるかもしれないが、ギャンブラーたちには暦も世間並の行事も関係なかっただろうから。
「仲井、綿アメ食べたい?」
「いらん」
「また、無理しちゃって」
「いくらなんでも、そんな子どもっぽいもん」
「じゃ、俺が買おうかな? それともリンゴ飴がいい?」
「好きにするたい」
どこかはしゃぐように屋台に並ぶ。仲井も買う段には文句も言わずに付き合う。
「次は金魚すくいやりたいなんて言い出すんじゃなかとね」
「なんだよ、やりたいの?」
「まさか」
「よし、二人分ね」
「え、ちょっと治はん」
結局、治に押し切られていっしょに袖を濡らし、その後も二人でぶらりと夜店を冷やかす。
そして数発の空砲が響き渡り、観客のどよめきが起こる。
「あ、始まった」
露店を少し離れ、見通しの良い場所に移動する。始めに一発。それから立て続けに数発、極彩色の大輪が空に弾けた。
「綺麗だね」
屈託なく感想を述べる治に対し、仲井は渋り切った口調で答える。
「もったいなか」
「え?」
「あの一発で、いくら掛かるか知っとう? おいがそれだけ稼ぐのに、どんだけ……はあ……」
眉根を寄せ、真剣な顔の仲井。治は思わず苦笑する。
「ったく、野暮なこと言うなよな」
リンゴ飴に齧りついた仲井は、あんずが良かった、とかなんとか独り言つ。治は尋ねる。
「じゃあ仲井はそんなにお金があったらどうするのさ?」
「おいか? そりゃあ」
仲井は顎を指でさすりながら答える。
「そいつをタネ銭にして、一勝負打つたい」
「ええ?」
「ククク……ごっつか卓、立つばいね」
それまで仲井の顔を見ていた治は、正面に向き直り、呆れたように言う。
「なあんだ、結局同じじゃないか」
「何がたい」
再び花火が上がった。しだれ柳の大玉が爆ぜ、少し遅れて響く轟音に周りのビルが震える。一面に広がった金色の光が、筋を引きながら漆黒の空に溶けていく。仲井がそっと顔を伺うと、治は闇を見上げたまま瞬きもせずにつぶやく。
「花火もギャンブルも同じだろ」
「あーん?」
それきり治は黙る。満員の列車のような人混みの中、片手に金魚の袋を持ち、もう片方は仲井の腕を掴んでいる。その手にほんの少し力が込められた気がした。
また、あの男のことを考えているのか。それとも――。
次の打ち上げ音に仲井も空を見る。闇が、爆音と共に色とりどりの華を映しだす。
「玉屋」と叫ぶ男の声。喧騒。沸き起こる拍手。
繰り返し繰り返し、花火が打ち上げられ、そして消えていく。
果て無く続く破裂音。
極彩色。
煙で煤けていく空。口に残る飴の味。
掴まれた腕。
その力がふっと緩み、仲井は解放される。はっとして治を見ると、にっこりと笑う。
「帰るか」
「ん? もうええんか」
「うん、楽しかった」
「花火、まだ終わりやないたい」
「帰りが混むといけないから」
「せやな、こいつもも弱ってしまうたい」
自分を見上げる治。
それから袋を持ち上げ、目を寄らせて中身を見つめる。赤い金魚は花のようにたゆたう。
うっすらと滲んだ目の淵を親指で撫でると、不思議そうな顔をした。
「それ、治はんが飼うたい」
「わかってるよ」
飴を食べ終えた仲井は、自分の煙草に火をつける。
「水はまめに換えるか、ポンプ買うといいたい」
「そんな詳しいなら、仲井が飼えばいいだろ」
「ちゃんと毎日エサやらんと」
再び花火の音。
刹那の華が闇に咲く。
二人は振り向かずに、帰途につく。
今日だけ――今だけは。
仲井は心中に思う。
空には黄金の残り火が煌めいていた。
(了)
PR