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スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

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仲井×治(→アカギ)




□■□■





半袖では少し肌寒い日だった。
商店街を抜けて銀行へと向かう道。大通りに出る角を曲がった瞬間、治は違和感に襲われた。

「あ、れ――?」

道の向こうの風景が変わっている。交差点の反対側、そこにあったはずのビルがなくなっていたのだ。どうやら唐突に工事が始まり、取り壊されたようだった。建物の隙間から遠慮がちに零れていた西日が、眩しいほどに治を照らす。残暑から秋というこの頃は既に夕方の気温は下がってきていたが、顔や腕を差す白い陽光は、熱いほどだった。


「ずいぶんスッキリしちゃったなあ」

治は立ち止まり、しばらくその場所を眺める。廃材の撤去作業は既に済み、木片や鉄の棒などが転がっていた。ぽっかりとのぞいた水色の空は、夕焼けにさらされた桃色の雲を浮かべている。好景気は街の景観を造り変え、未来を築いていく。あの場所が何の店だったのか、しばらく考えてみても、今ひとつ思い出せない。
――と、大時計が鐘を打つ。


「あ、もうこんな時間か」

治のように少しのんびりとしたところのある人間にとっては、時々その流れの速さに唖然としてしまう。それでも、日々の糧を得るためには進まなくてはいけない。
遅れちゃう、とつぶやき、治は歩き出した。



□■□■



――数日後、治は買い物に出かけ、再びあの工事現場の脇を通った。

車両出入り口から白い壁の中を覗けば、雨に濡れた建機が数台残っているだけで、作業員もほとんど引き上げたようだった。今日の作業はもう終わりなのだろう、昼間響いていた騒音も今はなかった。未だ鉄骨が組まれただけのがらんどうなので、西日がじんわりと治を焦がす。
何かが作られていくさまを見るのは楽しかったが、完成してしまえば街に組み込まれ、溶けこみ、埋没するだけ。無機的な建物を近景に、どこか寂寞とした夕焼け空を見上げれば、柄になく感傷的な気分になる。

(ずっと工事をしていればいい。このまま何も出来なければいい)

たとえ街が歪つなままでも、拓けた空を見ていたいと思った。
街に開いた風穴は、まるで心の中の埋まらない穴のよう。そこにあるのは大事な人を失った悲しみ。
だが、その穴が埋まってしまったら……大事な人をもう一度失ってしまうのではないか。

――そういえば。
治はふと、別の街のことを思い出した。

絵葉書だかカレンダーだかの写真でいつか見た、外国の風景。建築家が亡くなっても工事が続いているというその建物は、教会だったか。

ぽっかり穴の開いたこの工事現場とは真逆、何も無い場所に唐突に出現した塔。それでも、同じように不吉な印象を治に与えた。そしてその不吉さが、どこかいとおしいと感じている。


(いつまでも工事が終わらない教会――どこの国だったっけ? 仲井は名前知ってるかな。帰ったら聞いてみよう)

留守番を頼んだ相手のことを思い出す。仲井のことを考えると、心がふっと軽くなる。どこかに吸い込まれていきそうな不安が、地に繋ぎ止められている気がする。

だがいつか――。
彼をも失う日が来るのか。いや、それはきっと来るのだろう。

(その時俺は……。今日のような気分になるのか、それとも――?)


早く帰りたい。帰ってあの仏頂面に会いたかった。「遅い! 延長料!」と文句をいう仲井の声が聞こえるようだった。たとえケンカの最中でも、きっと言うだろう、あいつは。そういうヤツだ。治はふっと微笑む。

幸せと悲しみ。二つを抱えて治は歩き出す。
工事現場を過ぎ、オフィス街を通ると突風――ビル風が治の背中を押した。

「っと……!」

思わずよろけてしまう。
しかし。
その人肌のような生暖かく力強い風が、なぜか心地良かった。



(了)

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