◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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【ホモホモしい注意】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日が過ぎた。
仲井の傷も表面的には癒え、出歩くことに支障がないくらいまでにはなっている。今日は店が休みなので、治も付き添って医者に行くことにした。
爽やかな秋晴れの日だった。澄み切った空には無数の白い雲が群れを成していた。
「わあ、凄いひつじ雲だね! 今日は空が高いや」
「ん~?」
はしゃぐ治に釣られるように、仲井は空を見上げた。面白くもなさそうな顔で、
「あれはうろこ雲たい」
「は? 何が違うんだよ」
「あげに小さか羊はおらんと」
「そういうもの?」
「そうたい。雲の高さが違うとよ。治はん、ぼーっと空ば見てるだけで何にもわかってなか。そんなんだから何時もカモられるんたい」
「う、うるさいな! 関係ないだろ」
仲井は歩みを止めた。煙草を手にしたまま、ぽつりと呟く。
「それにしても。本当に……、高かね」
「うん……」
治は雲を仰ぎ見たまま答える。大空に浮かぶ無数の羊が一匹の巨大な魚に飲み込まれたような気がした。巨魚は天上で悠々と泳いでいる。
再び二人は歩き出した。仲井がふらりと脇道にそれる。治が文句を言った。
「また銭湯かよ。先生に怒られるぞ。患部は温めちゃいけないんだから」
「おいはキレイ好きなんたい。どうせこれから消毒するんやから一緒たい。治はんは入らんのか」
この後も特に予定はない。治は少し考えてから答える。
「んー、じゃ、行くよ。お前が湯船に浸からないように見張らないと」
「なにたい、それ。おいは子供じゃなか」
真面目な顔で文句を言う仲井の肩を軽く叩く。
「はいはい、わかったわかった」
二人は連れ立って銭湯の暖簾をくぐった。
営業時間には少し早かったが、仲井は既に番台に着いていた親父を説得し始めた。
「なあ、ええやろ? いつも来てるんやし」
それから、湯代に少し色をつけて無理矢理手渡す。結局、一番風呂に入れることになる。
「強引だなあ」
親父に頭を下げながら、治は下足入れに靴を突っ込んだ。仲井は気にする様子もなく嘯く。
「金払ったら客たい、気にばせんとよ」
仲井は先に服を脱いだ。治が両手を裾にかけ、シャツを脱ごうとすると、そっちを見て呟く。
「やっぱりひょろっちいたい……女みたいな腰やな」
無遠慮で絡みつくような視線に治は身構える。
「お前、また……。こんなところで、何考えてるんだよ!」
「え? いや流石においも、昼間っからそんな気にはならんが」
「嘘つけ! 信用できるもんか」
無理もない、仲井はかつて、治を無理矢理モノにしようとした前科があるのだ。その時は、アカギが現れ、”事無きを得た”のだったが――。
「なんかお前、やらしいぞっ。先に入れよ!」
「な、なに怒ってるたい? 痛い痛い痛い!」
「うるさい」
焦ったように言う仲井の背を押し、強引に浴室に押し込む。
「ふー」
(オレの考えすぎ? でも元はといえば仲井が悪いっ!)
やはり、”そんな相手”といっしょに風呂に入るなんて狂気の沙汰だったのかもしれない。それでも、頑なだった以前に比べ、仲井に対する自分の心証が変化していることには気づいていた。
ここ数日、寝食を共にして、仲井といっしょにいるのも、案外悪くない、そんな風にも感じている。それでも、まだ心の底から信頼できる相手だとも思えない。
ただ、仲井が店の前に倒れていた夜のことはずっと気になっていた。行く当てはここしかなかったと言うあの言葉。
(オレ、頼りにされてるって……ことだよな?)
もちろん、傷が癒えたら仲井はすぐに出ていくのだろう。だが、金に細かい仲井が、今度は何も言ってこない。それは治を損得抜きの相手として見てくれているということではないのだろうか。
(ま、今はどうでもいいか)
考えを保留し、治はそっと浴室の扉を開けた。
◆◇◆
店に戻り、二人で少し早めの夕飯を食べる。
銭湯でも散々からかわれたが、話題は、下がかった方面だった。
「じゃ、お前、ホントに女抱いたことないと? 玄人もか?」
「うるさいなあ」
(男相手なら、なあ)
しかし、今ここでアカギとのことを言うつもりはなかった。
「まったく、下品なんだよ仲井は。ほら、その皿貸して!」
治が後片付けを始めようとすると、仲井は小馬鹿にしたように言う。
「まあ、相変わらず純情で結構たい」
憎たらしい口を聞けるようになったのは、回復している証拠。治は軽くいなすように言う。
「ふん。お前こそ、俺なんか襲うくらいだもの、よっぽど溜まってたんだろ」
純情と言われて少しカチンと来たのもあった。自らその話題に触れる。ところが。
「あ、あれは……魔が差したというか。悪かったと思ってるたい」
「えっ?」
てっきり、しつこいとでも言われると思っていたので、素直に謝られると、拍子抜けの感だ。
「おいもどうかしてたと……。あげな後で、親切にされて……ほんま……」
治は焦る。
「止せよ、お前にそんな風に言われると、調子が狂っちゃうよ。オレも、もう気にしてない……し……」
「ホンマか」
「うん」
そして、沈黙。
(気まずい……)
煙草を吸い終わったばかりの仲井も、手持ち無沙汰なのか、柄にもなくちらちらとこっちを見ている。こんな時、どういう会話を続ければよいものか。
(あ、でもこういうのって………………いやいやいや!)
よりによって、かつて映画で見た初心な恋人同士の姿を思い出してしまう。気恥ずかしい発想に耐え兼ねて、治は立ち上がった。
「オレ、食器、片付けてくるからっ」
かちゃかちゃと、少々乱暴なくらい音を立てながら、治は皿を洗う。小さなシンクから、勢い余った水が床に跳ねた。
無意識に手を動かしている間、頭に巡らせるのは勿論、奥にいる、あの居候のこと。
厚かましいのか繊細なのか、それともその両方なのか。
治とて人間である、人肌恋しい時もある。孤独を抱えた男同士、きっと、仲井もそうなのだろうと、勝手に斟酌する。
(居場所が欲しい、とか?)
自分が仲井にどう映っているのか、本当のところ、それはわからない。治に仲井は計れない。ただ、仲井は多分、自分のことを女代わりくらいに考えているのかもしれないと想像する。
向こうがそのつもりなら。
少しくらい身を寄せ合っても、構わないんじゃないかと思った。
(仲井がオレを頼るっていうんなら、それに応えても……いいよな)
治は保留することを止めた。
(アカギさん、オレ、間違ってるかな?)
いつものように問いかける。治の心の中に、あの人は棲んでいる。
(お前、相変わらずズレたこと言ってんな……)
その相手は、穏やかに笑っている。
心に、一陣の風が吹き抜ける。
食卓では、仲井が所在無さそうに紫煙を燻らせていた。
治が正座するのを見て、ちらと目を移し、再び煙草を口に持っていく。
「薬、飲んだのか?」
「飲んだ」
仲井はそっけなく答える。いつもの饒舌は消えたままだった。
治が灰皿を傍に寄せてやると、黙って手を伸ばし、灰を落とす。
「なあ、仲井」
治はちょっとためらった後、思い切って聞いた。
「抜いてやろうか?」
「えっ」
「まあ、お前が嫌じゃなければ、だけどさ」
仲井はぽかんとした顔で、治を見つめている。そして口を開く。
「抜くって、まさか」
「いや、あの、その……。さっきの話の続きってわけじゃないけど。ずっと、オレの所にいたから、きっとホントに溜まってんじゃないかなって思ってさ。それに、どうせヒマだし」
(何でオレ、こんなに必死なんだ)
自分でも訳がわからない。アカギとの経験で、男同士に抵抗はなくなっていたが、好きでもない相手にこんなこと言うなんて、馬鹿げている。ただ、仲井がそうしたいんじゃないかと、どこかで感じていたのは事実。
(オレが口実作ってやるっていうのもおかしいよな)
しかし、そんな駆け引きめいたことが、実は、少し楽しい。相手がわずかに見せる表情を掠め取り、次の言葉を選ぶ。心拍数は上がり、緊張で汗ばむ。まるで――恋愛に似た感覚。
「抜くだけなら、傷にも負担ないだろ」
最後の一押し。仲井は眉間に皺を寄せ、応えた。
「そんなら、頼む」
続く……
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