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【流血注意 ホモホモしい注意】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昭和40年代初頭――。
闇の世界に君臨した伝説の賭博師がいた。
その男の名はアカギ……。
赤木しげる……。
かつて、アカギの計らいで大金を手にした舎弟の治は、彼が薦めた通り商売を――雀荘を始めたのだった。人当たりの良い治の店は雰囲気がよく、評判も上々だった。店は軌道に乗り、治は、工場勤めだった頃に比べたら大分余裕のある生活が送れていた。
ある夜のこと。
既に店の明かりを落とし、奥にある居住スペースで、治がまさに寝ようとしていた時。
表のドアに何かがぶつかる音がした。
(なんだろう、酔っ払いか?)
酔漢のなかには、ところかまわず壁やドアを叩いていく迷惑な性癖の者もいる。どうせまたそんな類だろうと思ったが、店の前で酔いつぶれられても後が大変である。治は起き出して、様子を見るために少しだけ、入り口を開けた。
暗闇の中、一人の男がうずくまっている。
「仲井っ?」
そこにいたのは、顔見知りの店の常連、仲井だった。
「お前、どうしたんだ?」
「いや、ちょっとイザコザあってな……。たいしたことなか」
「たいしたことないって、そんなわけないだろっ、血だらけじゃないか」
店から洩れるわずかな明かりの下でも、仲井の状態は酷かった。髪はぺっとりと血で濡れ、目の脇にも大きな痣。ぐったりした様子から、衣服で見えない場所にも、相当のダメージを負っているのだろう。
「いいからこっち入れよっ」
「大丈夫や、て」
「黙ってろ」
仲井に肩を貸して立ち上がり、治は乱暴にドアを開けた。
「面倒かけるわけには」
「こんなところで倒れられたら、商売上がったりなんだよっ!」
「それも……そうたい」
治は自分が寝泊りしている奥の小部屋に仲井を運び込む。
座布団を丸めて枕代わりにして、仲井を横たわらせた。
「あーあ、酷いなこれ。畳まで血だらけだよ」
ぶつぶつと文句を言いながら、治は湯を沸かし、濡れた手拭を用意した。
ボタンを外しシャツを肌蹴ると案の定、打撲の後があった。治は手際よく、体を拭いてやる。髪についた血を丁寧に拭っていると、いつもずうずうしく自分を利用するだけの仲井に、だんだん腹が立ってくる。治が少しだけ荒々しく手拭をこすると、仲井は苦痛に顔を顰める。
「ほら、背中向けて」
片腕だけをシャツから抜き、ゆっくりと仲井が背を向ける。
「うっ!?」
いったい何で切られたものか、背中には血が生乾きの裂傷まである。痛々しいそこだけは、そうっと汚れを落とすのに留めておく。
(こいつ、何をやらかしたんだ)
しかし治は聞かなかった。興味がない。仲井のしでかした事なんて、どうせろくでもないことに決まっている。大方イカサマがばれ、文字通り、痛い目にあったというところだろう。
「そうだ、いつもつるんでる『お仲間』はどうしたんだよ。こんな時に薄情な連中だな」
仲井はこの辺りを根城にした麻雀打ちだった。腕も立つが、仲間を使った「通し」というイカサマもよくやる。生計を立てるためには手段を選ばない男なのだ。
生真面目な性格の治にとっては、相性が悪いとしか思えない相手だった。答えない仲井に畳み掛ける。
「大体お前さ――面倒かけないとか言って」
額に手を当てる。まだ熱は出ていないようだ。
「だったら何で俺のところなんだよ。近くに医者だってなんだってあるだろ」
それまで黙って治の文句を聞いていた仲井は、目を瞑ったまま掠れた声でポツリと答えた。
「ここしか……思い浮かばんかった」
「えっ?」
聞き直しても仲井は答えない。大儀そうに体を動かし、腹ばいになる。その瞬間、ぐっという声が洩れたが、腹が痛んだのか、背の傷が痛んだのかはわからない。
「うつ伏せ、辛いか?」
「……大丈夫たい」
「じゃあ、そのまま少し待ってろ」
治は茶箪笥から救急箱を取り出した。商売柄、血の気の多い客も少なくない。そして時には喧嘩沙汰になることもある。店を始めた当初はおろおろするしかなかった治だが、この頃はそういう場面にも耐性がついた。自然と怪我の手当てにも慣れ、常備する薬も充実しているのだった。
大量の脱脂綿を消毒液に浸す。そして、おもむろに傷に塗りたくる。
「がっ!」
「我慢しろよ、化膿したら大ゴトなんだぞ」
突然の激痛に身を捩る仲井を、治は少し意地悪な気持ちで見つめる。
(どうせ自業自得だろ)
しかし仲井は、初めにこそ声をあげたものの、後はひたすら黙って苦痛に耐えていた。消毒が終わるまで一言も漏らさずに、きつく目を閉じ、治の手当てにその身を委ねている。そんな姿を見ていると、良心がちくんと痛む。
自分ではかすり傷にしか使った事のない白色の瓶。その時の刺すような痛みをふと思い出し、改めて仲井の傷を見てぞっとする。
(やっぱり、相当、痛いんだろうなあ)
いつもはいらないことまでペラペラと喋る男に黙っていられると、余計に落ち着かない。
(ったく、余計な手間かけさせて)
心の中でも毒づくが、やはり心配なことには変わりない。
とりあえずの消毒を終え、包帯を巻く。
「俺のトコじゃ応急手当しかできないんだから、明日は医者に行けよ?」
仲井は答えなかった。
返事を促すことをせず、治は立ち上がった。
簡素な厨房で氷嚢に氷を詰める。
治が戻ると、仲井はうつ伏せのまま薄く目を開けた。
カラカラと音を立てるゴム製の袋を包帯の上から当てる。
「冷た……」
「傷が熱を持つから、出来るだけ冷やした方がいいんだ」
そして、枕元にも氷水を置く。
「寝ちゃう前に少し飲めよ」
仲井は素直に従った。咳き込みながら、口を潤すと、目には少し生気が戻ったようだ。仲井の変化を見てほっとする治。しかし、気を許してしまったような自分を戒める。
「じゃ、俺ももう寝るからな」
怒ったように告げると、仲井の隣にごろりと横になった。
続く……
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