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【ホモエロ がっつり注意】
【壱】
――時代は昭和40年代を迎えていた。
暴力団同士による麻雀賭博。その代打ちの手伝いを務めた手数料として、百五十万円という大金を手に入れた治(おさむ)は、その金を資金に小さな店を開いた。
当時の地価は今の十分の一以下。とはいえ、好景気による地価上昇で、この金額では土地やビルを買う事は無理だった。治は、繁華街のビルの一室に手を加え、賃貸で狭いながらも小ぎれいな、雀荘のオーナーとなったのである。
治も麻雀を打つが、雀力はそこそこ止まり。時々面子に加わっては、客にいいようにからかわれもした。どこか人懐っこい治の人柄もあったのか、居心地の良いこの店はそれなりに賑わい、順風といえた。もっとも、客が行き過ぎた悪さをしなかったのは、開店の時に姿を見せた強面連中のことが噂になり、「あの店はバックに川田組がいる」などという勝手な憶測が広まったせいもあったようだ。
今日は珍しく休日前なのに客がいなかった。先ほどまで学生達が二卓囲んでいたが、切りが良かったのか早仕舞いをしたようだ。この時間だし、今日はもう閉めるか、などと治が考えてエプロンを脱いだ時、入り口のドアが開いた。
「いらっしゃい……何だ、仲井か」
「客に向かってご挨拶やな。なにたい、誰もおらんか」
顔を覗かせたのは仲井。彼は治の店によく訪れる「麻雀打ち」だった。
「うん、こんなこと珍しいけど。――でも、お前なんか客じゃないだろ」
「アホウ、常連様は大切にせんといかんたい」
「なに言ってんだっ。うちで打つのはいいけど、イカサマで客からカモるんなら出入り禁止にするぞっ」
「なにたい、人の商売にケチつけるんか。それに、おいはちゃんと使用料払ってるたい」
自称「麻雀打ち」である仲井は、この辺りの雀荘を根城にして賭け麻雀の上がりで食っている。実力もあり長丁場の勝負では粘り強さを見せるが、相手が格上と見るや、仲間を使ったイカサマを行うのだ。仲井からすれば、見抜けない方が悪いということになるし、それがこの世界での主流の考えなのだろうが、治はそういうことには潔癖なところがあった。
「あんなお金、いらないよっ」
治はレジを開け、その中にあった皺くちゃの封筒を仲井の方へ突き出した。
「使用料って、お前がいつも強引に置いていくチップのことだろ? 店の売り上げには入れてない。いつか叩き返そうと思ってたんだからっ!」
「はー、呆れた。律儀もここまで来るとアホウの部類たい。他の店ならそんなん黙って受け取るたい」
仲井は文句を言いながらも、ちゃっかりと封筒をしまいこんだ。
「他の店の事なんか知るか」
「あんなあ、あんさんが知らないだけで、結構ここでもエゲツないことやってるヤツ仰山おるたい」
「そうなのか……?」
「そりゃそうたい。これだもの、全く、危なっかしくって見てられんたい。まあ、あんさんのそういう純情なところは、おいも嫌いじゃないたい」
「純情って……バカにするなっ!」
「しかし、あんさんが雀荘の主人とはなあ。アカギはんに付いていかんで正解だったようたい」
「アカギさん……」
突然その名前が出てきて、治は少し動揺する。
アカギ……。
赤木、しげる。
若干十三歳にして裏の賭博世界に舞い降り、数々の伝説を打ち立てた天才ギャンブラー。再び現れた六年後、アカギは川田組の代打ちとして何千万円もの大金がかかった麻雀勝負を制し、何処へともなく姿を消した。治の得た大金は、この時のアカギの配慮によるものであった。
その魂の強さに触れ、かつては舎弟になる覚悟でアカギと共に職場を飛び出した治だったが、目の前の仲井に「住む世界が違う」と諭され、その道を捨てたのだった。そして仲井も、全財産をかけた勝負で赤子の手を捻るようにあっさりと、アカギに敗れていた。
――と、仲井はごそごそと荷物から何かを取り出した。小さな瓶に入っているのは、軟膏のような白いクリーム。
「何だ、それ?」
「ワセリンたい」
「ワセリン?」
「指に塗るとよ。指先が命のおいにとって、必需品たい。指が荒れると勘が狂う」
「へえ……」
話題が全然別の方向に飛び、治は一瞬、虚を疲れたようになった。よく見せてもらおうと、瓶に伸ばした腕を取られ、床に押し倒された。
「痛っ! 何するんだよっ!」
「純情なあんさんは知らんじゃろうが」
「な、何だよ」
「ムショじゃ、女がおらんたい、ワセリンを尻に塗って女代わりに男を抱くとよ」
「何……?」
世間ズレした仲井はそんな経験があるというのだろうか。治は相手が何を言っているのかわからず当惑する。
仲井は治のズボンに手をかけた。ここまできてやっと治は状況が飲み込みかけてきた。
「あんさんみたいなひょろっちい男は、絶好の餌食たい」
「まさかオレを……? 何考えてんだよっ!」
殴りかかろうとする両腕を一つに抑えられ、圧し掛かられる。仲井は力が強いだけでなく、治が起き上がれないポイントを知っているようだった。どんな風に力を入れても、振り払えない。治は下着ごとズボンを剥がされる。
「そげに抵抗するところも、そそるたい」
「やめろっ!」
(嫌だっ! こんなヤツに言い様にされて……オレ嫌だっ! 誰か、誰か助けてっ!)
治の目に涙が滲む。
(アカギさんっ! アカギさん、アカギさん……アカギさんっ!)
滲んだ世界で治は、ドアが開く音を聞いたような気がした。
――外の風。
開いたドアの前には、一人の男が立っていた。
「あらら……」
一言呟き、白髪の若者は、手にした煙草を口に持っていく。
「アカギ……はん?」
「アカギさんっ!」
「治か……。ここ、雀荘だよな……?」
「チッ、いいところで……」
アカギは吸っていた煙草を足でもみ消した。
「うん? そっちは仲井……そういう……関係だったのか?」
「違いますよっ! アカギさんっ、助けてくださいっ!」
しかし仲井は、あっさりと治の上から退いた。
「――もういいたい。こんなところでアカギはんの顔見たら勃つもんも勃たんたい。アホくさ……」
「アカギさんっ!」
治は慌ててズボンを上げ、アカギの傍に寄る。
「また来るたい」
仲井はアカギの横を通り抜け、店を出て行った。
「もう来るなっ! バカ野郎っ!」
悪態をつきながら、治はアカギの腕に、両手で縋り付く。
「アカギさん……オレ……」
引っ込みかけた涙が溢れた。
アカギは特に何の表情も見せなかったが、治が落ち着くのを待ってから聞いた。
「……この店、休みなのか?」
「そうじゃないんですけど……すみません」
ぐす、と治は拳で涙を拭く。
「座ってくださいよ、コーヒーでも入れます」
治は調理場に立ち、この店を開いたいきさつなどを軽く説明した。
「へえ……。お前の――店なのか……」
アカギが感心したように言うと、治は少し得意な気持ちになった。
「はいっ! アカギさんが薦めてくれた通り、商売始めたんです」
「そうか……」
「それで、アカギさん、今日はどこかに泊まる予定が?」
もう夜半は過ぎている。アカギは相変わらずの軽装だったが、携えたバッグにはきっと身上道具が入っているのだろう。
「……いや。その前に金、稼ごうと思って」
「だったら、ここに泊まってください!」
「ここ?」
「はい、僕、奥で寝泊りしてるんですよ」
治は戸締りをして、コーヒーを手に、アカギを店の奥へ案内した。
□■□■□
部屋にはちゃぶ台と小さな茶箪笥、布団が一組置いてあるだけ。治は腰を下ろしたアカギに、灰皿を渡した。
「……しかし、治が雀荘ね……」
「もうっ、アカギさんまでそれを言うんですか?」
「うん?」
「どうせ、危なっかしいとか言うんでしょ」
言いながら、治もアカギの横に正座する。
「いや、案外いいセン行くんじゃないか?」
「え、本当ですか!」
アカギは答えず、取り出した煙草に火を点けた。寛いだ様子のアカギは、足をだらしなく崩し、目を伏せて煙をくゆらす。治の知っている穏やかなアカギ。前と変わらないアカギの姿。
治は、アカギをちらちらと見る。口を開いては閉じ、言おうか言うまいか、決めあぐねている様子だったが、やがて、意を決したように言った。
「ぼ、僕、本当は……」
「……?」
「アカギさんに会いたくて雀荘開いたんですっ!」
アカギは、驚いた様子で治を見た。
「あの後……アカギさんと仲井との勝負の後。仲井に止められたんです。お前がうろちょろしてたら迷惑がかかるって。それは、自分でもそう思ったんです……けど」
治は膝の上に置いた拳をギュッと握り締めた。
「それでも、やっぱりもう一度会いたくて。オレ……僕がアカギさんみたいになれないのは分かってるけど、でも……」
アカギは黙って煙草を吸う。指先の赤い光が色を濃くし、やがて灰に埋もれた。治の告白は続く。
「雀荘を開けば、もしかして、いつかアカギさんが来てくれるかも……そう……思って……」
勢い込んで話し始めた治だったが、最後の方は消え入りそうな声だった。
「フフ……相変わらず何を考えているのやら……」
アカギは笑った。治はじっと下を向き、口を結んだ。
「でも、そういうことなら……」
アカギは煙を吐き出した。
「治にしちゃ、上出来の待ちだな」
「え……」
アカギを見る。煙草を揉み消しているその表情からは、何も読み取れなかった。
「オレを張って雀荘に入り浸っても、おまえじゃカモられるのがオチだしな。いい商売始めたじゃねえか」
「アカギさん……」
思いがけず認められたような気がして、治の頬は上気した。アカギは治を見た。
「……で、治。オレに会ってどうするつもりだったわけ?」
「えっ……」
治は言葉に詰まった。
――アカギに会いたい。
ただそれだけの為に、店を構え、日々の職を勤める。
もとはあぶく銭のようなものだったとはいえ、百五十万円という自分の身には過ぎた大金を投じた。うまく行っているからいいようなものの、無謀ともいえるこの投資の見返り――それが本当に、アカギに会うという、漠然とした願い――ただそれだけなのだ。
会ってどうする、その先なんて考えもしなかった。
(オレはどうしたかったんだろう。オレって本当に考え無しだ……)
泣きそうな顔で治が黙っていると、アカギもしばらく黙る。治を見つめるその瞳は、漆黒の闇。何もかもが吸い込まれてしまいそうな、闇の色だった。
「治……」
アカギは言った。
「おまえの相手をしてやる」
「えっ、僕、ギャンブルは……」
「馬鹿。おまえ相手にギャンブルやってもしょうがねえだろ」
「そっ、そうですよね」
アカギが薄く笑うと、治の鼓動は早くなった。
(そりゃそうだよ、オレなんかがアカギさんに、万に一つも敵うわけないもんな……。じゃあ相手って、何……?)
「さっきの続きだよ」
「さっきの……?」
アカギは黙って席を立ち、店の方へ行った。戻ってくると、手にはさっき仲井が忘れていったワセリンが握られている。
「それ、仲井の……どうするんです?」
「どうするって……決まってんだろ。その布団敷け」
「ええっ!」
(それってつまり、仲井がやろうとしていたことの続き……ってことだよなっ?)
「アカギさん……そういう趣味があったんですか」
「嫌なのか? さっきも嫌がってたし、嫌ならやめるけど」
「嫌っていうか……」
まさかこんな展開になるとは思わず、治は混乱した。部屋の隅に積んである布団。妙に生々しい現実が治に迫る。
「おまえは勝った……」
「はい?」
「全財産賭けてオレを待っていて、オレはここに来た。なら、オレはそれに見合う代償を払うべきだろう……」
「だ、代償だなんて……そんなつもりは」
そもそもこれは一方的で勝手な想い。アカギにはなんの関係のない話。
(――でも)
いざアカギを目の前にしてみると、治にもある種の大胆な欲が沸いてくる。
(オレはアカギさんと繋がっていたい。たとえそれがどんな関係でも。この人の傍にいられないなら、せめてそういう――体の関係を持ったっていいんじゃないか?)
それはまるで女のような発想かもしれない。だが、それでもよかった。
(この人の存在をもっともっと、刻みたい。オレの体に。魂に。)
「――で、どうする?」
「や、やりますっ!」
何が待っているのか治に理解できたとは思えない。しかし治は承諾した。それは紛れもなく、治自身の意思。
アカギは服を脱いだ。
「あ、アカギさん……」
「おまえも脱げよ」
「は、はい……」
治は従う。アカギの口調はいつも通りで、ムードもへったくれもない。しかし、治の胸は早鐘のように打ち出した。これが二人で銭湯にでも入るというのなら何の問題もないが、自分たちはこれから、男女のように交わるのだ。――多分。
確かに仲井もそう言っていた。しかし、本当にそんなこと可能なのだろうか?
「僕、どうすれば……?」
「治」
「はい?」
「男はともかくとして……もしかして、おまえ、女の経験も……ないのか」
「ええ、まあ」
「そうか……」
アカギはなぜか、しばらく黙った。
「……じゃあ、まずは練習だな」
「練習……?」
「自分が女だと思ってみろ、そうすればどうして欲しいか、その心理がわかる」
「はあ」
(女の気持ちになる? それって、どういう……)
治が半分納得しかけたかどうかというところで、アカギは治を引き寄せる。そしていきなり口付けた。
「……っ!」
――煙草の匂い。そして、目の前にアカギの顔。吸い込まれそうな暗黒の瞳に、治はびっくりして目を瞑る。暗闇の中でただ、アカギの息遣いと、唇だけを感じる。
(アカギ……さん……っ!)
声にならない声をあげようとした時、口の中に差し込まれる異物。それはアカギの舌。
「……あっ……」
異物は治をこじ開け、強引に口腔を侵す。異物……と思っていた物が、自分の舌と絡み合い、歯列をなぞるうちに、まるで蕩け出していくような感覚を治は覚えた。否、蕩け出したのは自分の理性。
「……っ……はっ……あぁ……」
くすぐったさが段々と高揚感に変わり、アカギを求める。そう、求めずにいられない圧倒的な快感。漠然と憧れていたアカギが、今は自分と向き合っている。求めてもいいと許されたのだ。治は目を開け、いつしかしがみついていた。アカギは治をゆっくり押し倒す。
胸に手が伸びる。そこには男には無用の突起。しかし、今、アカギがそこを撫でると、治の体はびくっと震えた。新たな感覚。目覚め。
「……んっ……ぅあっ……」
アカギの掌のぬくもりが、治の胸をじんわりと包む。そのぬくみの頂点には、つままれ、押しつぶされる痛みがある。アカギは胸まで唇を這わせ、軽く噛んだ。
「あぁっ!」
たまらずに声を上げ、背中を反らせる。
「フフ……いい反応だ、治」
「……はぁっ……アカギさん。僕……変、です」
覚醒する感覚についていけない。浮かされたように治は呟く。
さっきまで口を侵していた舌が、今度は乳首を嬲る。体中の快楽が胸に集まってきて、時折加えられる痛みで、放出されるかのようだった。
「変……? 嫌か?」
「ん……嫌じゃなくて……気持ち……いい、です。……気持ちよくて……おかしい」
「おかしくていい」
アカギは言いながら治をうつ伏せにした。さんざん嬲られ硬くなった乳首に、ざらりとした布団の感触が伝わった。ただそれだけでも、じん、として快感が背中を駆け上る。自分はどうなってしまうのか。混乱と恥ずかしさで、治は顔を手で覆う。
腰を少し持ち上げられ、膝を付いた格好にされた。
(こんな……格好……)
自分のあられもない姿を考えないようにしても、羞恥は治を包む。アカギが後孔にワセリンを塗り込めている。その現実。
「……ひっ……」
さすがに鳥肌が立つが、丹念な指遣いに、徐々に緊張が解れる。生まれ出る官能は恥ずかしさも離散させていく。
「……うっ……あ……?」
ぬめりとアカギの手管によって治の菊門は弛緩し、ついには指の進入を許すまでになる。
「あぅ……」
再び感じる違和感。そして圧迫感に息が止まりそうになるが、痛みはなかった。アカギが腸壁をなぞると、治の襞は淫らに蠢いた。
「……あぁ……アカギさん……僕やっぱ、り……変……です」
油薬の助けを借りて、ゆっくりゆっくりと門がこじ開けられていく。一本だった指が二本、三本と増やされる頃には、治の前立腺は暴かれ、射精へのスイッチが入れられる。しかし、治はいまだ悦楽の潮流にただ翻弄され、自分がどこに向かっているのかわからなかった。
「ひぁ……ああ…………指が……あぁん、……アカギ、さん……」
(オレ、男なのに……。アカギさんを相手にこんなに……こんな風に……変、だろ)
「フフ……治……勃ってるぞ」
「……えぇ……っ……?」
背後から囁くのは焦がれた人の声。その人の指は自分を躍らせ、もう片方の掌は自分の分身を握り込む。静かな部屋に、ぬちゃぬちゃといやらしい音が響くのは、自分の先走りがその人を濡らしているから。快楽に突き動かされながらも、治は罪悪感に似た愉悦に酔う。そして、自分がどこに向かうべきかわかる。前と後ろの情動が繋がる。治は腰をくねらせた。
「アカギ……さんっっ……オレ、イっちゃう……よ」
「まだだ……」
分身を握る手に力が入る。菊門を攻める指が広げられ、これ以上ないくらい門が開かれた気がした。
「あぁっ!」
「治……いくぞ……」
「えっ」
背中に感じる重み。アカギの重み。そして、背中に当たるのは硬くなったアカギの一物。同じ男として、どんな時にそれがそういう状態になるかはさすがに分かる。
(アカギさん……。アカギさんもオレを求めてくれている……のか……?)
背中に感じる確かな存在は、治の胸を甘く満たす。
しかし――。
「あああぁっ!」
入ってきたのは、圧倒的な異物。準備が整ったと感じたのは、錯覚だった。
圧倒的――進入。治は耐え切れずにぽろぽろと涙をこぼした。
「うぅ……い……」
「口……開けて、力……抜け」
真剣な口調だった。
(アカギさん……?)
「動かせない……だろ」
(動かす……?)
考える前に口を開けた。長く、息を吐く。治は堪えた。
「はああぁあ……」
入ってくる。アカギが。自分の中に。
「いい……ぞ、治」
返事をする代わりに涙が伝った。辛い……でも。
「そうだ……もう……止められない……」
声が。温度が。質量が。アカギという存在が、治を刻んでいく。オレを感じろと、叫んでいる。アカギはゆっくり動き出した。
「……あぁ」
治は両の手でぎっと布団に爪立てた。
押される。押される。何度も。何度も。――しかし、アカギの動きは巧みだった。アカギに貫かれる度に、先ほど指で拓かれた快楽の泉が、再び溢れ出す。律動が快感の波を呼び込み、萎えかけた治の分身が再び硬さを取り戻していく。
(そうか……、オレ、アカギさんだから……。こんなに、気持ちいいんだ……)
治は膝に力を入れ、自分でも腰を押し込むように動かし始めた。羞恥と痛みを超え、膨れ出した悦楽が治を酔わせる。
「治……」
アカギは治の雄身を握りこみ、上下させる。再び始まった開放への予感に治は震えた。この喜びを与えてくれるのは自分の想い人なのだ。
「あぁん……あぁ……っ」
漏れ出ずるのは喘ぎだけ。しかし心が呼びかけるのはただ一人。焦がれた人の名前。
(ああ、アカギさん、アカギさんアカギさん……!)
あっという間に治はその人の手の中に果て、崩れ落ちる。そしてアカギも……治の中に、己が精を注ぎ込んだ。
「……大丈夫か」
「はい……なんとか……」
アカギが自身を引き抜くと、治の菊門からはとろんと白濁がこぼれた。
治からそっと離れて、一旦身を清め、アカギは布団の上に胡坐をかいた。マッチを擦り、煙草に火を点ける。目が覚めるような燐の匂いが、ツンと鼻を突いた。
「治……」
「はい……」
治もなんとか起き上がり、アカギの横に座る。いまだ残滓を銜え込んだ体は火照っている。
「まだだ……」
「えっ」
アカギは煙を吐き出す。
「まだ終わりじゃない」
「……?」
「今度はお前の番だ」
「俺の……番?」
煙草を深く吸い込んだアカギの指先に、朱色が点る。
「フフ……」
(アカギさん……? それって、どういう……)
治は当惑した。
続く……
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