◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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【ホモホモしい注意】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の朝。
治は耳元で呻き声を聞いた。
(あっ、そうだ。仲井)
厄介な客人の存在に気づき、一瞬で目が覚める。
隣で寝ている仲井はうなされていた。傷による熱の為だろう。治は起き出して、氷嚢の中身を取替える。
「大丈夫か」
冷たい水に浸し、固く絞った手拭で顔を拭いてやると、強張った顔がほんの少し緩む。こんな顔をする仲井は初めて見るように思う。
(なんかコイツって……)
人を値踏みするような仲井の表情を思い出す。
(いつも余裕ないっていうか、崖っぷちっていうか)
所詮は、はぐれ者なのだ。
その日その日の稼ぎを自分で賄うしかない生き方をしていれば、人を信用して心を開くことなどないのだろう。いっしょに組んでいる仲間たちとも、もしかしたら金だけの繋がりなのかもしれない。
(でも、なんで俺なんだよ)
麻雀の時もそうだ。こちらが聞いてもいないのに、治の打ち筋がいかに駄目か、解説する。またそれが、正論なだけに頭にくるのだ。しかし、きっと同じことをアカギに言われたら、素直に納得してしまうのだろう。我ながら現金なものだ、とも思う。
(やっぱり、馬鹿にされてんだよな。まあ、いいけど)
頼られて悪い気はしない。昔から、人に使われやすい性質。自覚もしている。一緒にいて安心できる、それが治のよいところでもあるのだが、本人としてはやはりもっと男らしくなりたい、そんな思いもあるのだろう。
だから、アカギについて行った。
彼に憧れて麻雀を続けてはいるものの、ギャンブルに拠って、生きていくというのは自分には出来ないだろうとも感じている。
治は、アカギの勝負を間近でみたことはあっても、実際麻雀で対峙したことはない。だが仲井は違う。
ふと治は、あの勝負の時に感じていた疎外感を思い出した。仲井の目に、アカギはどう映ったのだろう。アカギにとって、仲井はどう映ったのだろう。
それでも、自分には自分の分というものがある。だから結局今の仕事を始めたのだ。悔いはなかった。進む道は違っても、現在に殉ずる生き方――アカギのように純度の濃い生き方が、きっと出来るのではないだろうか。治はそう信じている。
(仲井は……、どうなんだろう)
アカギに敗れ、己の分を知った仲井は、今も麻雀を続けている。
コツコツと積み上げてきた全財産を賭けた勝負。あの時仲井は、己の出来うるありとあらゆる手段を使ってアカギに挑んでいた。いわば、人生そのものを賭けたといっていい。
アカギの魂に触れた男――。
昨夜のような体を張った麻雀。仲井がどんな思いで勝負に臨んだのか。仲井もきっと彼なりに、前のめりの人生を生きているのかもしれない。
「仲井……」
居候は答えず、静かな寝息を立て始めた。治は立ち上がり、店の掃除をするために三和土に降りた。
◆◇◆
営業時間中にも、時々仲井の様子を伺いながら、治は仕事を続けた。
夜も更け、最後の客が帰った。
奥の部屋に戻ってくると、仲井は目を開けて、じっと畳の方を見つめている。 視線の先には、空になったコップと手拭を置いた盆があった。
「目が覚めたか?」
「ああ」
治は仲井の額に手を当てる。
「熱は下がったみたいだな。少し楽になったか?」
「……そうやな」
「じゃ、栄養取らなきゃ。起きろよ」
ちゃぶ台を拭き、食事の用意をする。
「まだ体が動かんたい」
「だめだよ、ずっとその姿勢じゃないか。無理してでも少し起きないと、そのまま動かなくなっちゃうんだぞ」
「まさか」
「本当だよ、適度の運動はリハビリに大事なんだ。寝たきりは良くないぞ」
「しゃあないな」
仲井がゆっくりと時間をかけて起き上がるのを、根気良く待つ。
傷に触らないような体勢におさまったのを見計らって、粥を渡す。
「何たい、これじゃ力がつかんと」
「ゼイタク言うな。ずっと寝てたんだから、これでいいんだよっ。卵も入ってるんだぞ! あと、この化膿止めも飲めよ」
「はいはい、わかったと」
どこまでもずうずうしい仲井にあきれる反面、あれこれ言うのが、少し楽しかった。会社の寮を出て、しばらく一人暮らしだった治は、まるで家族の会話のようなやり取りを懐かしく感じる。普段は気の弱いところもある治が、仲井が相手なら何故かぽんぽんと文句も言えるのも不思議だった。
自分も一緒に食事を取り、食べ終わった二人分の皿を持って、厨房へ向かおうとする。
「次はハムでも入れるか……」
ぶつぶつと呟く治に、仲井は声をかけた。
「治はん」
「ん? 何だよ」
「ご馳走様」
「ああ、うん」
治は笑った。
続く……
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