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スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

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nangou02

【以下腐要素含みます】











◇◆◇◆◇



「アカギ……、熱いだろ」
「大丈夫」
「全く、お前と来たら強情だな」
「南郷さん、もしかして、熱いの……?」
「いや、そんなことないぞっ……全然熱くない!」
「……ふうん」
「や、やっぱり、限界だ……っ! 俺、もう出る!」

 昼下がりの一番風呂。二人は銭湯で汗を流していた。こんな時間の客層は年寄りか子どもばかり。張り立ての熱い湯船に浸かるが、冷たい水の出る蛇口付近は子どもたちに占拠されていたのだった。

「さて、頭でも洗うかなっ」

 南郷は洗い場へ向かう。アカギも湯から上がった。

「ほら、石鹸」
「ああ」

 隣に座るアカギを見れば、白い腕が赤く染まっている。

「なんだ、体真っ赤じゃないか。ほら、湯に浸かってた跡がくっきりだ」

 黙っている相手の返事を促すように、赤と白の腕の境界線を指で突っつく。

「見ろ、これ。お前だって無理して入ってたんだろ?」
「違うって」

 アカギは取り合わない。南郷は、ちらりと背中や腹部に目を走らせる。そこにはアカギが裸身になってから気になっていた無数の傷。それもここ数日で出来たと思われる、生々しいもの。

(チキンランで落ちたとき――か)

 命を懸けた断崖絶壁へのダイブ。気違い染みた蛮行は、仲間内での抗争の果てのものだという話だった。明らかに打撲のような紫色の痕もある。

「なに?」
「あ、いや……」

 詳細は聞いても仕様がない。話したくなれば自分から口を開くだろう。

(あんなに熱い湯、傷口に染みるだろうに、強情なやつ)

 アカギの子供らしい一面を見たような気がして、南郷は笑った。

「……はは」
「なんだよ? 南郷さんだって体、真っ赤だよ」
「ああ、そうだな。……ほら、気持ちいいだろ」

 冷たい水を背中にぴちゃぴちゃかけてやる。

「っ! なにそれ、止めろって」

 どちらが子供かわからない。
 アカギは南郷を無視して、手早く頭を洗い、さっさと桶を片付ける。

「オレ、もう出るから」
「えっ、ちょっと待ってくれよ」

 慌てて南郷も手ぬぐいを引っつかみ、アカギを追った。


   ◇◆◇◆◇


 銭湯から出ると、まだ夕方にもなっていなかった。
 南郷が家に戻ろうとすると、アカギは反対に歩き出す。

「じゃ、また明日」
「じゃ、って、お前どこ行くんだよ」

 アカギは何も答えない。

「明日は安岡さんに会うわけだし、今夜も俺んとこに来いよ」

 昨日の勝負に同席していた刑事・安岡から、昼間、連絡が入った。再戦場所と立会人について、話が決まりそうだということで、詳しくは明日待ち合わせ場所で教えてくれるらしい。

 アカギは肩をすくめてそのまま行こうとする。その表情は全てを諦めきったような大人びたもの。南郷は行こうとするアカギの肩を掴んだ。

「じゃあさ、飯食いに行こうぜ。一人で食うのも味気ないしさ、それくらい付き合ってくれよ」
「……飯くらい一人で食えよ」

 アカギはそっけなく言った。

「アカギ……」

 どこまでも自立している。

 昨日の勝負のすぐ後だったら、納得していたかもしれない言葉。しかし、年相応のアカギの表情を見た後だからなのか、南郷は断られたことより、アカギという少年の生き様のようなものにショックを受けた。
 出来る限り早く独り立ちし、大人にならなければ生き残れなかった。それほどまでに、苛烈な人生を過ごしてきたというのだろうか。

 自分とて、それほど恵まれた境遇だったとはいえない。しかしこいつには、無邪気な少年時代が果たしてどれ位あったのかと思うと、南郷はセンチメンタルな気分になる。

(せめて今くらい、俺を頼ってくれればいい)

 自分が助けられた身であることも忘れ、勝手に、保護者のような心持を抱く。それは、年長者としての南郷の、一方的な驕りであったかもしれない。

「なあ、アカギ。何が食いたい?」
「別にいいよ」
「まあ、そう言わずにさ……なんでも好きな物言ってみろよ。
「……」
「なあ、お前だって好物くらいあるだろ」
「なんでもいいの」
「ああ、いいよ」

 しつこく訊く南郷に対し、なぜかアカギは、勝負中に見せた、あの挑むような目になった。

「ふぐさし」
「……」
「……」
「ふぐさし? 魚の?」
「ああ」
「あの……高級料亭で、出てくる?」
「うん」
「それは――」

 アカギはふっと暗い目になり、口の端で笑う。

「冗談。……言ってみただけだよ」
「いや、わかった!」
「えっ」
「知り合いの板前に、頼んでみる。あいつは俺が借金持ちだって知らないんだ。そうだ、またお前を甥っ子ってことにするか?」
「……」

 楽しげな南郷に引っ張られるようにして、当惑したようなアカギも連れ立って歩く。二人は料亭に向かった。


   ◆◇◆◇◆


「美味いか?」
「うん」

 透明な刺身がアカギの口に消えていくのを見ながら、南郷は満足気に日本酒を飲む。自分を注視する南郷の視線を上目遣いで捉え、アカギは訊いた。

「南郷さん」
「なんだ?」
「金、あるのか」
「あるわけないだろう」
「えっ」

 三白眼の奥の瞳が、少しだけ開く。驚くアカギを見て、なぜか南郷は楽しそうだった。

「大丈夫大丈夫。ツケでいいんだそうだ」
「そうなのか?」
「ああ。――まあ、子供がそんな心配するな」

 既にかなり酔いが廻っているらしく、南郷は陽気に請け負い、アカギの肩をぽんぽんと叩く。

「どうせ数日後には、俺たち死ぬ運命じゃないか。最後に美味いもん食ったってバチは当たるまい。それに、お前が勝てば、ツケを払えるわけだし」
「そういや、そうか」

 アカギは妙なところで納得したようだった。

「南郷さん」
「ぁあ?」
「アンタ……やっぱりギャンブラーだな」
「あん? そうだ、俺はぎゃんぶらあだよ。博徒だ。そして、ギャンブルの炎に焼かれて死ぬのさ」
「炎、か」
「はははは……。アカギ、お前も飲め! また、二人で死線をくぐりに行くぞ!」
「……そうだね」

 戯言に相槌を打ちながら、アカギは酔っ払った南郷を見つめていた。


   ◆◇◆◇◆


 目が覚める。
 日は既に高く、アカギの姿は見えなかった。

「あ……夕べ……俺……?」

 アカギに介抱されながら家に戻ったところまでは覚えているが、その後が記憶にない。二日酔いの反動で南郷は一気にマイナスモードに突入し、ぐるぐると当てのない考えを巡らせる。


(俺、大人気ない振る舞いでもしたのか……?
 それで愛想をつかして……なんてことはないよな。まさか……ははは)

(アカギ……出かけたのか?
 それとも、夕べから既にいなかったとか……?)

(アイツと来たら、一体どこに行ったんだ。
 心配ばかり掛けやがって……)


 一人の部屋だった。
 差し込む陽光は、弱った人間の心を照らし、その影を増大させる。


(いや、違う。――俺が。
 アカギがいないと、不安なのだ。
 あんな子供に頼りきっている自分が情けない。
 いい大人だぞ、俺は)

 ――それでも。

(やつの姿を、見ていないと。
 ギャンブルに、プレッシャーに、押し潰されそうだ……)


 南郷は、座ったまま煙草に火をつける。煙を吐きながら部屋を見渡す。昨日はそこにアカギが丸くなって寝ていた。
 ふと、味気ない砂壁に貼られたカレンダーに目が留まる。
 一昨日の日付の上には、黒く丸がしてある。勝負の日。
 丸の先の日付。なかったはずの人生。
 アカギに掬ってもらった日々。今日はその二日目だ。


(何のことはない、自分はアカギを子供扱いして、傍に引き寄せているだけだったのか。結局は、あの男に、縋って、頼っている)


 アカギの揺れない心。
 それに比べて、自分の心のなんと不安定で、脆いことか。

 不安という魔が南郷を覆い始めた。
 ふつふつと沸いてくる、生への執着。
 生きている限り、断ち切れない、しみったれた計算。


(やっぱり……。あの勝負、ないことに出来ないのか。
 いや、せめて半分。三百万でもあれば、充分俺はやり直せる)

(――生きていける)


 安岡との会合まで、まだ時間があるが、南郷はいてもたってもいられなくなる。
 アカギは既に、待ち合わせ場所に向かっているのかもしれない。


(アカギ……。 俺は、もう、降りたい)


 南郷はよろよろと立ち上がり、指定されたスナックへと向かった。



続く……

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