◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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【以下腐要素含みます】
◇◆◇◆◇
「アカギ……、熱いだろ」
「大丈夫」
「全く、お前と来たら強情だな」
「南郷さん、もしかして、熱いの……?」
「いや、そんなことないぞっ……全然熱くない!」
「……ふうん」
「や、やっぱり、限界だ……っ! 俺、もう出る!」
昼下がりの一番風呂。二人は銭湯で汗を流していた。こんな時間の客層は年寄りか子どもばかり。張り立ての熱い湯船に浸かるが、冷たい水の出る蛇口付近は子どもたちに占拠されていたのだった。
「さて、頭でも洗うかなっ」
南郷は洗い場へ向かう。アカギも湯から上がった。
「ほら、石鹸」
「ああ」
隣に座るアカギを見れば、白い腕が赤く染まっている。
「なんだ、体真っ赤じゃないか。ほら、湯に浸かってた跡がくっきりだ」
黙っている相手の返事を促すように、赤と白の腕の境界線を指で突っつく。
「見ろ、これ。お前だって無理して入ってたんだろ?」
「違うって」
アカギは取り合わない。南郷は、ちらりと背中や腹部に目を走らせる。そこにはアカギが裸身になってから気になっていた無数の傷。それもここ数日で出来たと思われる、生々しいもの。
(チキンランで落ちたとき――か)
命を懸けた断崖絶壁へのダイブ。気違い染みた蛮行は、仲間内での抗争の果てのものだという話だった。明らかに打撲のような紫色の痕もある。
「なに?」
「あ、いや……」
詳細は聞いても仕様がない。話したくなれば自分から口を開くだろう。
(あんなに熱い湯、傷口に染みるだろうに、強情なやつ)
アカギの子供らしい一面を見たような気がして、南郷は笑った。
「……はは」
「なんだよ? 南郷さんだって体、真っ赤だよ」
「ああ、そうだな。……ほら、気持ちいいだろ」
冷たい水を背中にぴちゃぴちゃかけてやる。
「っ! なにそれ、止めろって」
どちらが子供かわからない。
アカギは南郷を無視して、手早く頭を洗い、さっさと桶を片付ける。
「オレ、もう出るから」
「えっ、ちょっと待ってくれよ」
慌てて南郷も手ぬぐいを引っつかみ、アカギを追った。
◇◆◇◆◇
銭湯から出ると、まだ夕方にもなっていなかった。
南郷が家に戻ろうとすると、アカギは反対に歩き出す。
「じゃ、また明日」
「じゃ、って、お前どこ行くんだよ」
アカギは何も答えない。
「明日は安岡さんに会うわけだし、今夜も俺んとこに来いよ」
昨日の勝負に同席していた刑事・安岡から、昼間、連絡が入った。再戦場所と立会人について、話が決まりそうだということで、詳しくは明日待ち合わせ場所で教えてくれるらしい。
アカギは肩をすくめてそのまま行こうとする。その表情は全てを諦めきったような大人びたもの。南郷は行こうとするアカギの肩を掴んだ。
「じゃあさ、飯食いに行こうぜ。一人で食うのも味気ないしさ、それくらい付き合ってくれよ」
「……飯くらい一人で食えよ」
アカギはそっけなく言った。
「アカギ……」
どこまでも自立している。
昨日の勝負のすぐ後だったら、納得していたかもしれない言葉。しかし、年相応のアカギの表情を見た後だからなのか、南郷は断られたことより、アカギという少年の生き様のようなものにショックを受けた。
出来る限り早く独り立ちし、大人にならなければ生き残れなかった。それほどまでに、苛烈な人生を過ごしてきたというのだろうか。
自分とて、それほど恵まれた境遇だったとはいえない。しかしこいつには、無邪気な少年時代が果たしてどれ位あったのかと思うと、南郷はセンチメンタルな気分になる。
(せめて今くらい、俺を頼ってくれればいい)
自分が助けられた身であることも忘れ、勝手に、保護者のような心持を抱く。それは、年長者としての南郷の、一方的な驕りであったかもしれない。
「なあ、アカギ。何が食いたい?」
「別にいいよ」
「まあ、そう言わずにさ……なんでも好きな物言ってみろよ。
「……」
「なあ、お前だって好物くらいあるだろ」
「なんでもいいの」
「ああ、いいよ」
しつこく訊く南郷に対し、なぜかアカギは、勝負中に見せた、あの挑むような目になった。
「ふぐさし」
「……」
「……」
「ふぐさし? 魚の?」
「ああ」
「あの……高級料亭で、出てくる?」
「うん」
「それは――」
アカギはふっと暗い目になり、口の端で笑う。
「冗談。……言ってみただけだよ」
「いや、わかった!」
「えっ」
「知り合いの板前に、頼んでみる。あいつは俺が借金持ちだって知らないんだ。そうだ、またお前を甥っ子ってことにするか?」
「……」
楽しげな南郷に引っ張られるようにして、当惑したようなアカギも連れ立って歩く。二人は料亭に向かった。
◆◇◆◇◆
「美味いか?」
「うん」
透明な刺身がアカギの口に消えていくのを見ながら、南郷は満足気に日本酒を飲む。自分を注視する南郷の視線を上目遣いで捉え、アカギは訊いた。
「南郷さん」
「なんだ?」
「金、あるのか」
「あるわけないだろう」
「えっ」
三白眼の奥の瞳が、少しだけ開く。驚くアカギを見て、なぜか南郷は楽しそうだった。
「大丈夫大丈夫。ツケでいいんだそうだ」
「そうなのか?」
「ああ。――まあ、子供がそんな心配するな」
既にかなり酔いが廻っているらしく、南郷は陽気に請け負い、アカギの肩をぽんぽんと叩く。
「どうせ数日後には、俺たち死ぬ運命じゃないか。最後に美味いもん食ったってバチは当たるまい。それに、お前が勝てば、ツケを払えるわけだし」
「そういや、そうか」
アカギは妙なところで納得したようだった。
「南郷さん」
「ぁあ?」
「アンタ……やっぱりギャンブラーだな」
「あん? そうだ、俺はぎゃんぶらあだよ。博徒だ。そして、ギャンブルの炎に焼かれて死ぬのさ」
「炎、か」
「はははは……。アカギ、お前も飲め! また、二人で死線をくぐりに行くぞ!」
「……そうだね」
戯言に相槌を打ちながら、アカギは酔っ払った南郷を見つめていた。
◆◇◆◇◆
目が覚める。
日は既に高く、アカギの姿は見えなかった。
「あ……夕べ……俺……?」
アカギに介抱されながら家に戻ったところまでは覚えているが、その後が記憶にない。二日酔いの反動で南郷は一気にマイナスモードに突入し、ぐるぐると当てのない考えを巡らせる。
(俺、大人気ない振る舞いでもしたのか……?
それで愛想をつかして……なんてことはないよな。まさか……ははは)
(アカギ……出かけたのか?
それとも、夕べから既にいなかったとか……?)
(アイツと来たら、一体どこに行ったんだ。
心配ばかり掛けやがって……)
一人の部屋だった。
差し込む陽光は、弱った人間の心を照らし、その影を増大させる。
(いや、違う。――俺が。
アカギがいないと、不安なのだ。
あんな子供に頼りきっている自分が情けない。
いい大人だぞ、俺は)
――それでも。
(やつの姿を、見ていないと。
ギャンブルに、プレッシャーに、押し潰されそうだ……)
南郷は、座ったまま煙草に火をつける。煙を吐きながら部屋を見渡す。昨日はそこにアカギが丸くなって寝ていた。
ふと、味気ない砂壁に貼られたカレンダーに目が留まる。
一昨日の日付の上には、黒く丸がしてある。勝負の日。
丸の先の日付。なかったはずの人生。
アカギに掬ってもらった日々。今日はその二日目だ。
(何のことはない、自分はアカギを子供扱いして、傍に引き寄せているだけだったのか。結局は、あの男に、縋って、頼っている)
アカギの揺れない心。
それに比べて、自分の心のなんと不安定で、脆いことか。
不安という魔が南郷を覆い始めた。
ふつふつと沸いてくる、生への執着。
生きている限り、断ち切れない、しみったれた計算。
(やっぱり……。あの勝負、ないことに出来ないのか。
いや、せめて半分。三百万でもあれば、充分俺はやり直せる)
(――生きていける)
安岡との会合まで、まだ時間があるが、南郷はいてもたってもいられなくなる。
アカギは既に、待ち合わせ場所に向かっているのかもしれない。
(アカギ……。 俺は、もう、降りたい)
南郷はよろよろと立ち上がり、指定されたスナックへと向かった。
続く……
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