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【ホモエロ がっつり注意】
◆◇◆
わずか十三歳にして闇賭博の世界で伝説となった男。
アカギ……。
赤木しげる。
あれから六年の歳月が過ぎたが、彼の行方は杳として知れなかった。
天才少年の覚醒を至近で見た安岡も、躍起になって捜索をした一人だった。
そして安岡は、アカギによく似たある若者と出会う。
若者の名は平山幸雄といった。卓越した記憶力を持つ、彼もまた一種の天才だった。
暴力団の大物連中に顔が利く安岡は、平山に、「アカギ」として賭け麻雀を打つことを薦めた。その頃にはアカギの名は知れ渡っていて、その才気に触れたいと考える幹部連中も多かった。いわば需要があったのだ。
「深く考えることはない、俺たちは『アカギ』というラベルをつけた才能を供給してやるだけのこと。おまえが天才だという事実は間違いないのだからな」
安岡にそう説得される。それまで才を持て余し、裏世界で燻っていた平山には、断る理由もなかった。
「作るぜ……無敵神話をもう一度」
明日――。いよいよその緒戦とも言える呼び出しがかかったのだった。
マンションの一室。安岡は平山の肩に手を置いた。
「いよいよだな、”赤木”」
「クク……止せよ、誰もいないのにその名前は。冗談が過ぎる」
「そうか?」
興を削がれたような顔で、安岡は煙草に火を点ける。
「ところで、約束は覚えているな」
「取り分のことなら、最初に決めた通りで……」
「そっちじゃない」
もちろん覚えていた。比類なき記憶力の代償なのか。平山には忘れるということが出来ない。上着を脱ぐ安岡に、平山は聞いた。
「これから――?」
「景気付けだ。おまえも腹が据わるだろう」
「なんだそれ、そんなのオレ……」
「おまえも脱げ」
「……わかったよ」
安岡が平山のマネージメントをする条件、それは、暴利とも言える仲介料に加え、体の提供をするというものだった。この世界、そういう趣味の人間も多い。若く優男である平山も、面白半分に言い寄られたことなら何度かある。しかし、実際に――というところまではさすがに経験がなかった。
(理解できねえ)
男同士なんて、何がいいのだろう。それとも、安岡くらいの年になってしまえば、男も女も関係ないのだろうか。平山は、考えることで気を紛らわそうとした。
(大体、こんなオッサン相手に勃つわけもない。いや、俺は股を開くだけでいいのか)
ヤケクソ気味に、机の上のグラスをクィッと飲み干し、ベッドに入った。サングラスも取り、一糸纏わぬ姿になる。裸になるのは別にどうという事もないが、こんな自分に欲情するというのが、わからない。しかし、煙草を燻らせた安岡にじっと見ていられると、なんともいえない気恥ずかしさや焦りといった感情が沸き起こってくる。
「なあ、明かりは――、消さないのか?」
声に不安が滲む平山に、にやにやしながら安岡は言う。
「怖いのか」
「な……馬鹿言うなっ! そんなわけあるかっ!」
(この――クソ親父っ!)
「あ、あんたの顔なんか見てたら、胸糞悪くなるだけだから! やるんならさっさとやったらどうだ」
精一杯の嫌味を聞き、安岡は楽しそうに目を細め、煙草を揉み消した。
「なかなか可愛いことを言うな。――そういうことを言われると」
安岡は自分もネクタイを緩める。そしてそのまま引き抜いて、平山の背後に回った。
「逆にゆっくり時間をかけたくなるものだ」
「な……?」
「せっかくだから、お前も楽しめ」
ネクタイによる目隠し。平山は闇に包まれる。
「ほらこれなら大丈夫だ」
「なんだよ、これ。ふざけてんのか」
「男相手が嫌だってんなら、今までにしゃぶられた女の事でも想像してみろ。全部覚えてるんだろ」
「馬鹿言えっ」
いくらイメージを浮かべたところで、耳元でそんなダミ声が響いていては無理に決まっている。そう思った。しかし実際のところ、安岡がそうやって囁きかけると、鳥肌にも似た何かが背中から駆け上ってくる。その何かは平山の頭を濁した。
(不思議だ……この声。気持ちがいい)
気のせいだろう。少し酔いが廻ってきたのかもしれない。しかし、それならそれで。元々、一方的に貪られる関係は望むところではない。ただ、この状態では任せるしかないし、気持ちがいいならそれに越したことはない。
ベッドに座したまま首筋を甘噛みされ、思わず声が出た。あ、と思ったがもう遅い。相手がそのことで煽られ、動きに変化がついたのがわかる。
(構うことはないか)
平山は思った。
自分は今暗闇の中、誰ともわからぬ相手と行為をしているのだ。それでいい。ただ流されていればいい。
しかしその相手は――、優しいと言っていいその愛撫は、自分を次第に追い上げていく。首筋から耳をなぞられ、平山が零す僅かな喘ぎを掬い、容赦なく攻め込んでくる。平山は徐々にその相手に酔わされていく。前が硬くなり始めた頃、煙草の匂いのする舌が、口腔に進入してきた。
(あ、安岡さん……)
本当に我を忘れていたのだ。相手のことも。ただ感じていた。そのことに驚きつつも、口を吸われ、侵されているとどうでもよくなってくる。息継ぎの間も惜しく、自分から舌を絡め、腕を相手の首に回していた。
いつか平山は背中をついて仰向けにさせられていた。
「気持ちよくなってきたか」
むに、といきなり前方を掴まれる。
「ぐっ」
まだ全勃ちではないが、芯のある状態。ベッドに入る前は、そんなこと絶対にないと思っていたのに、安岡相手に、男相手に欲が集まっている。言い訳が出来ない。平山が黙っていると、安岡は何も言わずに、乳首に舌を這わせてきた。
(えっ)
未だ闇の中。どこから攻撃が飛んで来るのかわからない。まさかそんなところを、と思っているのも束の間。そこを狙って重点的に攻められると、掴まれたままの前方が勝手に反応する。
(なんだよ、これ……)
わけがわからない。相手は安岡だというのに。自分は女ではないのに、胸などないというのに。突起をつままれ、歯を立てられる度、仰け反りたい衝動に駆られる。握られた屹立を動かして欲しくて、腰をもぞもぞとさせてしまう。
そしてついに先走りの蜜が、ぷっくりと溢れる。すかさず安岡はそれを丁寧に舐め取り、そのまま性器を口に含んだ。
「あぁっ!」
安岡が手を添え、先端を舌で歯で、優しくなぞる。滴る蜜と唾液をクッションに加えられる柔らかな愛撫。さらに刺激を求める平山が腰をくねらせようものなら、添えられた手が無駄なく動き、射精へ導いた。
「あっ――止めっ、ダメ……あぁ……っ!!」
抗う間もなかった。そのまま口の中で果ててしまう。安岡は喉を鳴らして飲み込む。
「さすがに若いだけあるな」
「何……言って……」
急激に放出された欲。反論も出来ず、感情も欲望も整理できず、荒い息を整えようとしていると、不意に安岡がベッドを降りた。
「……?」
目隠しをずらし、様子を伺えば、安岡は小さなガラス瓶を手にして戻ってきた。
「どう……した?」
「フフ……」
安岡は、瓶の中身を手に取り、脱力した平山の後孔に塗りたくった。
「……っ……!」
そうか、ああ、いよいよか、と平山は身を硬くした。男の孔はそのままでは濡れない、というのを聞いたことがあった。その瓶の中身はすべりを良くする為の軟膏なのだろう。塗り終わると安岡は、仰向けに寝たままの平山の上に馬乗りになった。解いたネクタイは再び、真一文字に平山の目の上に置かれた。その緩やかな目隠しごと、頭を抱えられる。
「怖いか」
耳元で囁かれる。今度は間違いなく、ぞくりとした。平山は、ネクタイを手で払った。自分を見下ろす安岡の目を見つめ、言った。
「怖くない」
「いいコだ」
「オレはガキじゃねぇ」
安岡は再び目を細める。その指はゆっくりと平山を解し始めた。
無意識に息を吐き、圧迫を受け入れる。それでも、いかんともしがたい――痛み。
しかし、果てなく広がると思えた苦痛の中に一点、針の穴から洩れるような光があった。
平山は、その光に縋る。初めは痛みを紛らわせる程度の光。しかし、それが段々大きさを増し、気がついたときには感じていた。
快楽。
快楽だった。
安岡の指がある場所に当たるたび、半身は蕩け、屹立には欲が送られる。平山は自ら腰を動かし、そこに逃れた。平山の変化に合わせ、入れられる指も増やされる。
そうしてついに、安岡自身も、体を重ねる。入ってくるのは、圧力としか言いようのない苦痛。
「力を抜いて……そうだ……うまいぞ」
平山にはもうわかっていた。あの光。あそこに意識を集中すれば、痛みは感じないのだ。そして安岡も、静かに動き出し、平山のそうして欲しい場所を巧みに攻める。先ほど既に暴かれた、快楽の源。切っ先による律動は、指の時とはまた違い、平山を新たな悦楽で満たす。
「あっ……あぁっ! ……なん……で……」
初めてなのに、これほど感じてしまうというのは有り得るのだろうか。平山にはわからない。ぐらぐらと揺れる頭で考えるのは、埒も明かぬ想像ばかり。
そうだ、さっきの飲み物。きっとあれに安岡が一服持ったのだ。そうに決まっている。そうでなくては説明がつかぬ、この愉悦。
「……や……安岡さ……」
「なん、だ」
「くす……り……入れた……ろっ……シャン……パン……に」
「……あ?」
安岡は一瞬、動きを止める。
「薬?」
「……っ……」
平山にとっては、その間すらも惜しい。もっと、もっとと体が疼いている。本当に、信じられない情動だった。
「なんのことだ? そんなモノ入れてないぞ?」
訝しがる安岡がゆっくり動き出すのも待ちきれず、平山はせがむように腰をくねらせる。
「……う……うそだ」
「おまえ、もしかして……」
了承した安岡は、笑みを浮かべ、再び力強く穿った。待ちかねた衝撃に、嬌声が零れた。
「……あぁんっ!」
「そうか、そんなに」
「んんっ……!……なっ……なんだ……よ」
安岡は答えを焦らした。焦らせばせがみ、与えれば喜ぶ。安岡にとっても、白く踊るこの肢体が、自分に反応する平山の姿が、いちいち煽って堪らなかったのだ。
「おまえに素質があるか……。あるいは、体の相性がいいんだろう、おまえと俺の」
「……えっ……」
(素質とか、相性とか、そんなことがあるものか――。だってオレはノーマル……あぁ、でも……っ!)
安岡の言葉は理解できたが、信じられない思いがした。それでも、安岡が伸ばしてきた手が前方を弄れば、いつの間にか屹立した自分自身は再び先走りを滴らせ始めている。ぐりぐりと後方を掻き回され、同時に前方に力が加わると、もう力が入らなかった。
「あぁ……それ……や……だ」
「嫌か? ならやめるぞ?」
「え」
動きを止めた安岡は、ヒクついた後孔の感覚を楽しむように、意地の悪いことを言う。平山はもう恥も外聞もなく、顔を手で覆い、啼いた。
「そんな、やぁ……」
「なら、素直になってみろ」
抉るように腰を上下させる。ほんの少しだけ前方の指を滑らせる。それで充分だった。平山は、逡巡を捨て陥落した。
「そ……れ、気持ち……いい」
「それで?」
「もっと……して……安岡……さ」
「幸雄」
(あ……?)
名前を呼ばれた。
驚く間もなく、平山は嵐のような安岡の攻めに翻弄される。
「あぁ……んっ!……あっ……」
全ては安岡が、自分に植え付けたのだ。快感に声を上げるのも、セックスで我を忘れるのも。そんなことは今日が初めてだった。
いや、過去などもう、どうでもよかった。
平山は今感じている享楽に、安岡に、身を委ねた。何もかも忘れさせてくれる、唯一人の男に。
「可愛い……な、幸雄は」
安岡の声が、気持ちの良いあの声が、そう言った気がした。そして。
金色の世界が、頭の中に弾けた。
◆◇◆
まどろみかけた平山の頭の中に、電話のベルが鳴った。
夢の中で、自分の好きな声が響いていると思った。
「――ああ、わかった。じゃ、すぐ現場に向かう。……うん、じゃそっちで……」
安岡は受話器を置き、まだぐったりしている平山に声をかける。
「悪いが俺は出かける。夜は大丈夫だよな?」
半分寝ぼけ眼で平山が頷くと、安岡は、鍵を机の上に置いた。
「これ。スペアを置いていくから、閉めておいてくれ」
「――仕事かい? 現場に行くだなんて、まるで刑事みたいだな」
「まるでも何も……、あれ、言ってなかったか? 俺は刑事だ」
「えぇっ…!」
本気でびっくりした様子の平山を、安岡は上着を着ながら面白そうに眺めた。しばらく呆然とした後、平山は呟いた。
「世も末だ……」
「ははははっ」
声を立てて笑うところを見るのは、その時が初めてだった。
◇◆◇
一眠りし、安岡の家を出た。自分の町に戻った時にはもう朝方だった。そろそろ通学や通勤時間になろうという時刻。駅に向かう真っ当な人たちに背を向け、一人、帰路に着く。平山は橋の上に差し掛かった。いつもは通り過ぎるだけの背景。何気なく、川を見た。
風が吹いた。黄金に光る朝の光が、水面をドミノ倒しのように走り抜ける。
一瞬のこと。
平山は、はっとして、その光の行く末を見つめた。
澱んだ川の水は、再び、何もなかったようにどんよりと海に向かってただ流れていく。
ここからどんなに目を凝らしても、海は見えない。
しかし平山の脳裏には、金色の光が焼き付いて離れなかった。
(俺も――、走り抜ける。あの光のように)
今日からは、安岡と二人。漕ぎ出すのだ、闇賭博という広大無辺の海へ。
そして、自分たちが行き着くのは――金色の未来。
平山は、いつまでもそこに立っていた。煙草に火を点け、欄干に肘をつき、川の終着点を見つめていた。
了
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