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スケッチ無頼

◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。 ◆閲覧は自己責任でお願いします。リンクフリー。転載などする際は一言お願いします。 ◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。 ◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意

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【ホモエロ がっつり注意】












   ◆◇◆◇



 夢を見た。
 子供の頃のだ。



 俺は裸足で歩いている。
 雨上がりの大地がひんやりと足に吸い付いてくる。
 湿った空気は清清しく、俺は機嫌が良かった。

 だが、ある時、ぺしゃりと何かが足の下で弾ける。
 小さな――カタツムリだった。

 足の裏に張り付いてやがる、ちっぽけな命の残骸。

 雨に浮かれて這い出してきたのか、
 ブロック塀にも、
 見知らぬ家の表札にも、
 露に濡れる葉の上にも、
 そいつらはぬたくっている。

 別の一匹を、つまみ上げる。
 俺が触るとたちまちに殻の中に身を隠す。

 子供の俺は、なんだかみじめな様子が気に入らないようだった。親指と人差し指で潰してやる。
 ねとつく指を開いてみれば、砕けた細かい殻がキラキラと自らの肉に埋もれている。
 生と死の境界が、死の方に振れた瞬間だ。


 俺は遊び始める。
 最初は何も考えずに、ただ潰していく。
 そのうち、腹の中に湧き上がる疑問。


 ――そこは安全か?
 ――安心か?
 ――痛いか?
 ――怖いのか?
 ――苦しいか?


 俺の問いに答えるものはいない。
 だからひとつひとつ、一匹ずつ、ぺしゃりと潰す。

 ところが、俺が持ち上げても、体も触覚も引っ込めない。
 そんなヤツがいた。
 ふと思いついて、殺すことを止める。
 生き残ったカタツムリをそっと手に乗せる。


 つん、と角をつつけば、さすがに頭に隠すが、じっと見ていればためらうように、再び触覚を突き出す。
 おどおどと、のろのろと這い出すそれは、ただ、自らの生を歩む。
 オレの手に残った――二つの感覚。


 そこで目が覚める。

 ――隣には、あの人が寝ていた。



   ◆◇◆◇



「アカギ」

 何度も呼ばれていたのだろう。
 しかし、勝負の後に呆けていた俺は、肩をつかまれるまで気づかなかった。

「大丈夫か」
「――何が」
「疲れただろう?」

 札束を抱えた南郷さんは、何故か心配そうに俺の顔を覗きこむ。

「いや、大丈夫だよ」
「そうか?」

 向こうの方では、この賭け麻雀のセッティングをした安岡さんやヤクザ連中が、ちらちらと俺を見ながら話し合っていた。なにやらキナ臭い雰囲気だ。


「ともかくこれだけは言わせてくれ。お前のおかげで今度こそ本当に命拾いしたよ。ありがとう」

 微笑みかける南郷さんからは、生き残った人間の弛緩した匂いがした。
 俺は立ち上がる。

「南郷さん」
「うん?」
「行こう。もう用はないだろ? 長居は無用さ」
「え、あ、ああ……」

「――おい、アカギ、どこへ行くんだ」

 安岡さんが引きとめたが、俺は答えなかった。
 すると南郷さんが、俺を家に連れて行くと請け負う。安岡さんはしぶしぶ納得する。

「じゃあ南郷さん、連絡しますから。――アカギ、また頼むぞ」

 あんなこと言ってやがる。俺にとってはどうでもいいことだ。
 部屋を出る前、俺は勝負の終わった卓を一瞥した。


 死闘の後。

 一秒一秒、お互いの腹を探り合い、体の全ての神経を相手に集中させる。
 浮かされたように俺は、その男の一挙手一投足を、ひりつく様な場の空気を、全身で感じている。
 まさにやるかやられるか、紙一重の戦いだと思っていた。
 互いを食らい尽くそうという欲を孕みながら、冷静に沈着に手を進める。たった一度の計算ミスが命取り、更には運も必要という底知れぬ深海へのダイブ。俺と共に潜ってくれる人間が、さっきまでは確かにいたのだ。そこに。

 だが、終わってみれば、対戦相手は戦意を喪失し、俺は行き場のない熱を無理矢理ガス抜きされた状態。心に燻ったこの熱は、またすぐに過熱して――この身を焦がすだろう。


「アカギ?」

 歩みが遅れた俺を振り返る。その拍子に、南郷さんは手に持った札束をバサッと落とした。

「うわっ、と……!」
「――ねえ、それ……、そのまま持っていくつもりだったの?」
「えっ……ああ、まずいか、さすがに?」

 照れくさそうに笑う。俺に金を預け、袋を貰ってくる、とUターンして長い廊下を走って戻る。このまま俺が、金といっしょにトンズラするという発想はないのだろう。どこか抜けているというか、詰めが甘いというか……。

 だがあの人も、俺の中に死線の匂いを嗅ぎ取り、自分の全てを委ねる、そういう種類の人間だった。
 そう、勝負師だったんだ。
 少なくとも数日前までは。



   ◆◇◆◇



「オレは――足を洗うよ」

 南郷さんが呟く。
 口の中の飯を飲み込みながら、耳を傾ける。
 料亭で土産にもらった軽食を、南郷さんの部屋で二人、ぼそぼそと食っている。

「もう、ギャンブルはしない」
「そう」
「これが引き際なんだと思う」

 抜けられなかったから借金が膨らんだのではないか。そんなことも思ったが、南郷さんの決意は固いとも感じる。だから言ってやった。

「いいんじゃないの」

 俺の言葉を聞くと、南郷さんはしばらく黙る。そして、コップにビールを注ぎ足す。

「飯、冷めてるけど美味いね」

 俺の感想に南郷さんは答えず、こっちを見て真剣な顔をする。

「オレは――ずるい男だ」
「ずるい?」
「お前をこんな……闇賭博なんかに引き込んで、自分だけ足を洗おうなんて」

 今度は少しばかり呆れた。何を今さら、だ。
 実際のところ、南郷さんはきっかけに過ぎない。俺のような人間は、どうしたって、世間の暗い方に追いやられていく。そうでなければ、のたれ死んでいるか、どちらかだ。

「オレは気にしてないよ。だから好きにすれば」

 本心からそう言った。

「アカギ……」

 南郷さんは煙草に火を点けた。最初の一口の後は、ただ煙を燻らせている。

「オレはお前のようにはなれない。それがよくわかったんだ。だが……お前も」

 下を向き、振り絞るような声で続ける。

「あんな勝負を続けていれば、いつか……ギャンブルの炎に……焼かれてしまうぞ」

 ギャンブルの炎、か。
 そりゃまた随分ストレートな表現だと思った。俺は即答する。

「それでもいい」
「えっ?」
「飢えたまま生き長らえるより、いっそ、焼かれてしまえばいい」


 南郷さんが顔を上げる。焦ったような顔。
 きっとまだ、自分のせいだと思っているのだろう。
 どこまでも一方的なんだ、この人は。

 そうじゃないよ、南郷さん。これは俺の性分。あんたに出会う前から、ずっと変わらない、俺の――生来の性質。

 だが、南郷さんにこの顔をされると、弱い。もっともっと、困らせたくなってしまうから。
 胸のうちに芽生える、仄暗い熱。俺は立ち上がり、南郷さんの傍に行く。

「南郷さん」
「どうした?」
「本当にそう思うならさ」

 俺は南郷さんに差し向かい、膝に座る。そして、煙草を取り上げ、揉み消した。

「ア、アカギ……な……に……」

 食卓との間の狭いところに無理矢理入り込んだので、南郷さんは後手をつく。
 俺は南郷さんの鼻先に顔を近づけて言った。

「あんたが満たしてくれよ……俺を」
「アカギ……」

 責任感にかこつける。――まあ、俺も大概ずるいのだ。
 疲弊していたからなのか、南郷さんの体の弾力が気持ちよかった。
 体勢を立て直した南郷さんの上で、俺はしがみつくようにして口付けた。煙草の匂いがした。

 だが南郷さんは抵抗しなかった。食事中だったからびっくりしただけで、むしろ、俺がそうすることがわかっていたみたいだった。口を開け、舌を絡めていると、急に、南郷さんが俺の体を抱きしめてきた。

「……っ!」

 指が髪を撫で、開いた口が時々、俺を呼ぶのを聞いた。体は熱くなり、重なった下半身で南郷さんが猛っていくのを感じた。

「な……南郷さ……」

 目が合う。

「また……いっしょにやる……?」

 俺が言うと、南郷さんは黙って上衣に手をかけた。俺たちは体を繋げたことはないが、いっしょに「達した」ことならあったのだ。

 先に服を脱ぎ、俺のシャツのボタンを外そうとする。

「……?」

 ”らしくない”性急さと切羽詰ったような表情、何か吹っ切れたような、南郷さんの気配。

「アカギ……」

 南郷さんは露になった俺の上半身をぎゅっと抱いた。

「安岡さんにはああ言ったが……お前は……行ってしまうんだろう?」

 ああ、それで、か。
 俺はしばらく目を閉じ、笑った。

「――そのつもり」

 南郷さんの腕に力がこもる。

 自分から俺に口付け、首や肩を愛撫する。それから俺の体に残った傷――チキンランの時のもの――に優しく唇を這わせた。痛みが気持ちのいいものだと感じたのは初めてだった。

 「一緒にやった」時には唇を交わすことさえしなかった。だから南郷さんがそんな風に俺を扱うことが意外だった。

 ――この人は、こんな風に女を抱いているのかな。

 ふと、そんな思いが頭をよぎる。しかしそれは埒も明かぬ想像。俺は再び南郷さんの行為に集中した。


 南郷さんが腰を、自分の分身を擦り付けてくる。俺も充分に固くなっているから、俺たちは互いのペニスを持って、扱き始めた。息が上がり、先走りが溢れてくるが、まだ絶頂は見えない。

「な……んごうさ……」
「……?」

 南郷さんの分身を、ぬるっ、と自分の孔に導く。

「こっち……入れて……」
「えっ……!」

 俺は濡れた指を自分の孔に突っ込み、解そうとした。南郷さんは初め、黙って見ていたが、そっと俺の腕に触れる。

「いいか……?」

 俺が頷き、指を引き抜くと、入れ替わりに南郷さんの指が入ってきた。
 南郷さんは指を動かしながら、俺の反応を確かめる。目には雄の本能とも言うべき光が宿っている。

「も……いいよ……」

 俺が言うと、南郷さんは躊躇なく体を重ねてくる。しかし、言葉では一応確認があった。

「本当に……大丈夫か……」

 俺は答えず、ただ目を見た。問題ない。
 後は――あなた自身が決めることだ。
 そして、南郷さんは俺の中に入ってきた。俺はゆっくりと背をついた。

「……っ!」

 体が貫かれる。焼ける――。

「アカギ……っ!」

 組み敷かれ、名を呼ばれ、熱い息がかかる。
 南郷さんに残った最後の狂気が、俺を炙る。

 痛みが欲にすり替わり、いつしか俺は、ただ感じていた。あの人の熱を。
 熱は絶頂を呼び、俺は相手の腹に白濁をぶちまける。

 猛りきった体に突かれる度に、残った精を吐き出す。そして、最後に大きく押され、俺の中に欲が満ちた。直後、南郷さんは、俺の上に崩れ落ちてくる。
 俺はその重さが気持ちいいと思った。



   ◆◇◆◇



 疲れがピークだったのか、最低限、体を清めた後、俺は少しの間、眠りに落ちた。
 隣ではあの人が、安らかに寝息を立てている。
 子供の頃の夢を見て、目覚めた時には既に頭がはっきりしていた。
 布団から滑り出し、服を身に着ける。


「南郷さん」
「んー……」

 あの人は眠そうに言う。頭の上から声をかける。

「オレ、もう行くから」
「えっ」

 俺が玄関に向かおうとすると、意外なことに、南郷さんは一瞬で覚醒した。起き上がって、慌ててズボンを履いている。

「ちょっと待て、お前。当ては――あるのか? しかもこんな時間だぞ」

 俺の前に立ちふさがる。チャックは全部上がりきっていないままだ。

「世話になったね」
「アカギ……」

 俺を見下ろして、突っ立っている。今にも泣き出しそうな情けない顔。
 だが南郷さんはもうそれ以上、引き止めることはしなかった。いつものように、俺の肩に手をかけることもなかった。

 そういう人なんだ。
 俺のことも、俺が行くことも、全部、受け止められる人だ。引き際を知っている。
 だから――生き残った。

「じゃ」

 南郷さんの脇をすり抜け、俺は、まだ明けぬ闇の中へ出て行く。



   ◇◆◇◆



 誰もいない公園を通り抜ける。
 ポケットには、南郷さんからくすねて来た煙草が一箱。
 マッチを取り出そうとした拍子に、札が一束落ちた。

 煙草に火を点け、燻らせながら、俺はしばらく地面の上のそれを見ていた。
 死闘を制し、命を削って得たはずの金。
 拾おうとしてしゃがみこみ、なんとなく、煙草の先を押し当ててみた。


 力加減を調整して、火が移るようにそうっと試す。初めはくすぶるだけだったが、束ねてあった帯封を火口にぽっと炎が灯る。そうなってしまえば所詮は紙。たちまちに燃え上がる。

 ギャンブルの炎――。

 俺はあの人の言葉を思い出しながら赤い火を見つめていたが、ふと燃える札束を掴んで
みる。

 狂気の炎は俺の手を焼く。
 刺すような痛み。なるほど、熱い。

 しかし、それも一時。既に燃え尽きそうだった金は、俺がぐっと力を込めればボロボロと崩れながら、小さくなっていく。


 最後の消し炭が、生ぬるい風に溶けていく。
 手のひらに残ったのはただの痛み。ただの煤。
 無様でトチ狂った、生と死の感触。

 だが――、悪くない。
 悪くないな。


 俺は拳を握り締め、もう一度開く。
 そして立ち上がり、明けていく朝に向かって歩きだした。



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