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【ホモエロ がっつり注意】
【壱】
「あんなヤツ……」
あんなヤツが何だってんだ!
口に出して、心の中で、平山幸雄はもう何度毒づいたことだろう。
「もう忘れろ」
そう言って目の前の刑事・安岡は布団に腹這いになったまま煙草に火を点けた。
平山は、隣に置かれた小さなちゃぶ台で、つまみも無しに安酒をあおっている。
六年前、その世界では五本の指に入るという盲目の雀士・市川を、わずか十三歳で破った伝説の男。平山は安岡に、その男の代役に仕立て上げられ、賭博の裏世界に足を踏み入れたのだった。
アカギ……。
赤木、しげる。
ずっと所在不明だとされていたが、平山がアカギを名乗り、川田組の代打ちとして実績を積み重ねている間に奴は発見された。
昨晩。
直接対決の場を設けてもらいながら、平山はアカギと対峙することなく、その機会を逸した。
既に平山は、組の威信を賭けた勝負を何度も制してきた。アカギの前に対戦していた相手も、そういった場数のひとつに過ぎない筈だった。しかし、姑息にも対戦相手はどんどんレートを上げていった。平山はついに膝を屈し、そしてあろうことか、アカギが平山の代わりとしてその対戦相手を破ったという。
レートを倍にして上げていったら、いつかはひっくり返される時だってある。それが確率というものなのだ。暴力団の潤沢な資金を利用すれば、それが可能だ。普通はその前に怖気づき、勝負を降りてしまうからそうはならないが、麻雀は勝ち負けだ。こういうコトだってある。平山にとって、アベレージは満足できるものであり、内容だって決して悪くはなかった。
それなのに――。
周りの連中はそういうことが全く解っていない。否、分かろうとしないのだ。
あの、”本物の”アカギという男が現れてから、平常だったら凄みを利かせる組長や幹部連中までもが、あいつのペテンにかかってしまったのだ。
他の連中が俺を見る目が変わった。それはいい。もともと名前を騙ったのだから、「所詮は偽者」というような評価はある程度仕方がない。しかし、肝心の安岡までもが、平山のことを憐れむ目付きで見るようになってしまった。これはキツかった。
「くそっ」
平山は猪口を開けた。
「もう忘れろ」
鼻から煙を吐き出し、安岡はもう一度言った。
「下手を打ったのに五体満足だっただけ、儲けモノだ」
「何言ってんだ、俺はまだやれたっ! それなのにアイツが! しかもよりによって……」
憤懣やるかたない様子の平山を見て、しょうがないヤツだ、と呟きながら安岡は呼ぶ。
「幸雄、こっちへ来い」
場末の連れ込み宿だった。こういう場所には本来男同士では泊まれない。しかし、安岡が宿のおかみに警察手帳を見せ、何か二言三言含ませると、あっけなく通されたのだった。毛羽立った畳の上には粗末な煎餅布団が二組。
安岡は際まで吸った煙草をもみ消した。
「脱げよ」
平山は何も言わず、素直に服を脱ぎ始めた。
裏の世界に生きる者の戦闘服。普段は上から下まで隙の無い装いで相手を威嚇する平山も、髪を洗いざらし裸になってしまえば、痩せて青白い、その辺にいる若者となんら変わりない。ただし今は、額に皺を寄せ奥歯をかみ締め、悪鬼のような形相をしていたが――。
「いつまでもそんな顔するな。あいつには――関わるなって言っただろう」
言いながら安岡は平山の手を引き、布団に寝かせた。そしておもむろに性器を口に含む。
「……っ」
気持ちが張っていることと若さも手伝い、平山のそこは、すぐに勃ち上がる。安岡は今度は片足を持ち上げ、後ろの孔を丹念に舐め解した。
「……っはあ……」
もう何度も安岡に犯され暴かれていた場所だが、最初のこの感覚だけはいつまで経っても慣れない。平山は身悶え、片手で安岡の髪を探る。
「安岡っ……さん……」
安岡は黙って舌を使い続ける。
「俺……ま、だ……」
充分に馴らされたとは言い難かったが、唾液で濡れた孔に、安岡は自分で軽く扱いた雄芯を突き立てた。
「はぅっ……!」
平山が安岡と組み、マネージメントをする条件がいくつかあった。裏社会に太いパイプを持っている悪徳警官・安岡は、仲介料として、かなり暴利な金の分配の他に、平山に体の提供も求めた。平山は驚いたが、無論世間にそういう趣味があるのは知っていた。
「中年になると、男も女もねえのかよ」
内心呆れもし、半時も我慢すればいいだけだと、初めは軽く考えて体を開いた。しかし意外にも、嵌ってしまったのは平山の方だった。
それまで女しか知らなかった平山は、セックスを一方的に自分の迸りを叩きつけるだけの行為だと思っていた。しかし安岡の、年齢的なものもあるであろう執拗な愛撫や、ポイントを知り尽くした攻めに、あっけなく陥落した。何度も絶頂に追い立てられ、充足感すら与えてくれる安岡との関係に、平山は依存していった。
しかし今日はいつもと違い、まだ硬さの残る平山の体に、無理矢理に近い形で安岡は自身を押し込み腰を使い始めた。
「痛ぇ」
幾度と無く安岡を銜え込んだ入り口は、唾液のぬめりを借りて問題なく受け入れる。だが、肉が擦れ、軋むような出し入れに、平山は顔を歪めた。
「痛いよ……安岡……さん」
「いつまでも……駄々を、こねるからだ」
それでも、安岡の切っ先がいい所に当たると、じわじわと蕩けていくような感覚が広がっていく。
「……はぁっ……ガキ……扱い……すんなっ……」
「お前はガキだ」
昭和三十年代の二十歳といえば、立派な大人である。中卒の労働力が「金の卵」ともてはやされた時代。平山くらいの年齢で部下を従え、あるいは家庭を持っている人間はいくらでもいる。しかし、平山は社会経験に乏しく、安岡と組む以前もまともに金を稼いだことなどなかった。己の才気への強烈な自負。それだけが平山を生かしていた。
平山には見たモノを細部まで瞬間的に記憶する能力が生まれつき備わっていた。これは非常に便利ではあるが、見たくない物まで抱え込む、厄介な能力でもある。幼い頃からこの能力を持て余し気味だった平山だが、麻雀に出会い、自分の才能を如何なく発揮できる道を知った。
牌だけを覚えればいい。余計なことは覚えなくていい。彼は麻雀にのめり込んだ。
平山にとって麻雀とは、人と対峙し、魂を、命を懸ける類のものではなかった。自分が泳ぐことの出来る海。居心地の良い場所。
さらに平山は、「確率」という思想も手に入れた。勝率を押し上げてくれる数字の魔法は、彼を賭博という海の、遙か沖まで誘った。
才に裏打ちされた平山の打ち筋は確かだった。また、掛け金の多寡でプレッシャーに屈するという事は無かった。自分が相手より劣っているか、勝っているか。彼の興味はそこに集約していたのだ。
そういう才走ったところが平山の強みでもあり、幼さの残る面でもあった。
そう――純粋だった、とも言える。
そして、その幼さ・脆さは安岡との関係にも現れていた。
安岡は何度も平山の体を穿つ。既に蕩け切った平山の孔は、ねっとりと絡みつくようで、そして前方も先走りの蜜を垂れ流し始めた。
「うっ……あぁっ……安岡……さんっ」
後ろでイク事を覚えた平山は、いつでも淫らに安岡を求めた。自分でも一番良いところを探り、安岡を導き入れる。しかし、彼をこういう体にしたのは安岡なのだ。
「もっと、気持ち……よく、してよ」
「……っ……甘えるな……」
そう言いながらも、安岡は緩急をつけ、平山の一番感じる部分を重点的に攻めた。さらに平山の固くなった分身にも手を伸ばす。
「ほら……自分で……握るんだ」
いつもならもっとたっぷりと時間をかけるのに、今日はずいぶんと性急だった。平山は急激に登り詰めた。たまらなくなってぬめる自身を握りこむ。
「……うぅっ……あぁ……出るっ」
安岡は、平山が一度射精をした後も、容赦しなかった。白濁を散らす雄芯をそのままに、攻め立てる。もっとも、これはいつものコースであった。後背位に組み替え、結合を深める。
「ぅあぁっ……ああ……ああん……」
若い平山は貪欲だった。特に今日は際限なく快楽を貪り、嬌声すら漏らした。平山は安岡によって開拓された農場のようなものだった。一度きっかけを与えてしまえば、あとは止め処なく快楽が実り、溢れ出す。そして、精が絞りつくされたあとも、快感の余韻は平山を放さなかった。
「ああん……安、岡さ……ああ」
うわ言のように啼き、体が跳ね、頭の中は白く明滅する。
安岡自身が達する頃には、平山は何度も何度も果て、空イキさえしていた。そして、安岡の熱い濁流で満たされることに安堵を覚えた。
「幸雄……」
自分の名前を呼び、もたれかかる安岡の重さを感じながら、平山は意識を手放した。
「気がついたか」
既に体は清められていた。安岡は寝間着で布団に入り、平山の隣で煙草を吹かしている。
「あ、俺……?」
「落ちちまったからな、体、拭いといたぞ」
平山は何も答えられなかった。気恥ずかしさから、自分も煙草に手を伸ばす。
一服し、沈黙がしばらくの間部屋を包んだ。
「少しは落ち着いたか」
「……?」
落ち着いたといえば確かにそうだが、まだ体は火照っている。
平山が何も言わないでいると、安岡は煙草をもみ消し、言った。
「昨晩のことだ」
「……そっちかよ」
煙草を胸いっぱいに吸い込み、吐き出す。放出された熱が、再び血液にのって体を駆け巡るような気がした。頭がくらくらした。
――そうか、俺がかんしゃく起こしたから。
平山はしばらく煙草をの火を見つめ、何気なく聞いた。
「なあ、アイツとは……寝たのか?」
安岡は一瞬驚いたような顔をした。そして、すぐに眉間に皺を寄せ、吐き捨てるように言った。
「何を馬鹿な……アカギは、そういう男じゃない」
「アカギは」
じゃあ、自分どういう男だというのだろう。
平山は聞けなかった。
「だからもう、そんな話は止せ。アイツは……魔物なんだ。俺たちのレベルでどうこう言うような男じゃないんだ」
(――くそっ!
じゃあ。
じゃあ、俺は何だって言うんだ。
俺は――)
裏賭博という広大で無辺な暗黒の海。平山はそこに漕ぎ出したボートだ。どんなに沖まで来てもそのボートは、海に潜っていくような真似は決してしない。それが平山の生き方だった。
他方、アカギは、深海までも自在に泳ぐ。まるで巨大な鯨。
――否。未だ人間には量れない、クラーケン、ダゴンといった怪物。
しかし、平山にはそういったことが見えない。海に潜ることもせず、その深さも知らず、船の上から己の小さな釣り針でクラーケンに挑もうとする――凡夫。
安岡も、平山の才能を認めてはいた。しかし、かつてアカギの魔を、その覚醒を至近距離で見た人間として、平山が敵う相手ではない事は充分承知している。アカギは制御不能のミサイルだが、平山はせいぜいじゃじゃ馬。手綱捌き次第では、充分に使える駒なのであった。
情事の後のけだるさが去り、平山の心に、再びふつふつとした滾りが甦ってくる。
(くそっ! アンタが言ったんだぞ。俺が――天才だって)
しかし、そんなことを口にするのは、さすがに子供じみていると思ったのか、平山は黙ったままだった。
(こんな中年親父の言う事に、心が乱されているというのか。この俺が。
違う、そうじゃない。俺は、アイツに勝ちたい。
――ただそれだけだ。
麻雀で。そうだ。麻雀で。
勝ちたい。
勝って、俺の方が上だということを、認めさせたいだけなんだ。
認めさせたい。
認めさせたい、だって?
何故認めさせたいなんて思うんだ――?)
平山は揺れた。自分で気づいていなかった、心の奥にある情欲。そんなものがあるとは認めたくない、青臭く、みっともないほどの執着。
安岡への、執着――。
( ……いや、そんな筈は無い。安岡は、俺の事は単なる金ヅル、性欲処理、そんな程度にしか考えていないはずだ。勿論、俺だって――)
「明日からまた仕切り直しだ。今日はもう、寝ろ」
眠そうに安岡が言う。仕切り直し。つまり、再び俺を代打ちとして雇ってくれるパトロンを探すという事なのだろう。
(まだオレと組むつもりなのか)
そのことにホッとしてしまう自分に驚愕する。
(違う、そうじゃない。人脈を持たない俺は、こいつを頼るのが手っ取り早い、ただそれだけだ。いくら才能があっても、活かせる舞台がなければ無意味。利用できるものを互いに利用する。それは自明の理)
それなのに……この、こみ上げてくる安堵。一体、自分はどうしたというんだろう。
窓から、月の光が差し込んでいた。寄ってみれば、中途半端な半月。
青白い月光は平山の揺れる思いをゆらゆらと照らしている。
平山はもう一度煙草に火を点け、燻らした。
(やってやる。俺は――天才なんだ。あの時は、機に恵まれなかっただけ。
俺は、勝つ。いつか、必ず。アカギに。そして……)
「俺――」
既に安岡が寝たのか、それは分からなかったが、ピクリともせず、規則的な寝息だけが聞こえる。
「安岡さん、俺さ――」
平山は、呟く様に語り掛ける。その言葉の先の決意は、安岡に届いたのだろうか。
続く……
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