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「新装開店……?」
地元から少し離れた街に買出しに来た仲井と治。二人が受け取ったチラシは映画館のモノである。
「へえ、また何か出来るの、この辺はすごいね」
「景気がいいのは結構たい」
「そうだね」
「でもまだ先の話ばい」
「なんだあ」
しかし治は、うきうきした様子で続けて言う。
「せっかくだからさ」
「ん?」
「その先の公園、桜咲いてるかもよ」
「ああ」
仲井も開花宣言が出たことは知っていた。二人が足を伸ばした先は、この辺りでは花見の名所であり、まだ陽の高いこの時間にも花見客がちらほらと酒盛りを開いている。
だが――肝心の桜は七分咲きといったところ。蕾ばかりの木もある。
「まだ満開じゃないたい」
「そうだね」
咲き切っていない桜の花は、昼の光を受けてもなお仄暗い。春の風が吹き荒れる日。ベンチに腰掛け、風の合間に仲井は煙草に火をつける。
「今週末辺りがきっと見頃ばい」
「うん」
店を持つ治にとって、週末にゆっくりと花見というのは難しい。
治がいないのに一人で来てもしょうがないな、仲井がそう思ったとき。
――突風。
「わっ」
持っていたチラシを飛ばされる。慌てて腰を上げかけたが、紙切れは空に舞い彼方に消えた。
「あーあ」
「すごい風たい」
「でもさ」
「あん?」
チラシの行く末を見つめながら、治が言う。
「咲き始めも悪くないと思うな、オレ」
「ほうかあ? 治はん、天ん邪鬼なんたい」
「そんなことないよっ、何言ってんだよ」
強風に煽られても花びら一枚散らさず、濃い桜色の山が揺れる。
仲井はふと空を見上げた。
枯れたような細枝と蕾の隙間から、青い色がのぞく。
春の風に雲が吹き飛ばされ、すっきりとした空だった。
「キレイな青空たい」
満開の桜の元だったら、この青空に気づいただろうか。
治の視線を感じ、ちら、と横を向けば束の間目が合う。
「なにたい?」
「別に――ただ」
「?」
治は再び前を向いた。
「オレもそう思ったから」
淡々と言う治の横顔を眺めながら、胸いっぱいに吸い込んだ煙草を吐き出す。
どこまでも純粋に今を生きている治。今を失うことが怖い自分。
それでも、同じものを見ていた。
――自分は、来年もこの人の隣にいるのだろうか。
仲井は目を閉じる。
青色は消え、ほのかな紅色の残像が見えるばかりだった。
(了)
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