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ラブシーンあり・がっつり
□■□■
――休日。
治は一人、映画を見るつもりで繁華街を歩いていた。
仲井を誘っても良かったが、年柄年中つるむというのもどうなのか、と少し自重したところだった。
いっしょにいる時間が増えるに連れ、彼のギャンブル仲間が、自分に気を使うことも度々あった。仲井にも元々の付き合いがあるはずで、互いの人生に干渉するような真似は迷惑かも知れない。治としても、仲井に依存するような生き方はしたくないと意地になっているところもあり、どこかで遠慮をしているのかもしれなかった。
(実際……オレたちの関係は……どうなのかな)
眉間にしわを寄せている自分に気づく。一人になると、つい余計なことを考えてしまう――そう思いながら、治は大通りの角を曲がった。
(わっ!)
今日の目当てはできたばかりの映画館だったが、ちょうど新作も封切りされ、平日だというのに大入り満員。家族連れやカップルが列をなしていた。
(どうしよう、せっかく来たのに。――とりあえず、ごはんでも食べようかな)
一人で行列待ちはきつい。治は映画を一旦あきらめ、何とはなしに細い路地を入っていく。
表通りとはうって変わり、いかがわしい雰囲気の夜の店が立ち並ぶが、昼はシャッターが降りているところが多い。治は特に躊躇することもなく足を進め、少し広い通りに出た。
どこから飛んできたものか、桜の花びらが舞っている。うららかな陽光を受け、ちらちらときらめくのは地面に落ちるまで。日陰の側溝に吹き溜まった小さな花弁は泥にまみれていた。
(もう桜も散っちゃってるんだな――あ)
そこにあったのは古びた映画館。
成人向けの、ピンク映画の上映を中心とした小さな劇場である。
(あんな近くに映画館できちゃって大丈夫なのかな)
一応、治も商売人である。他人事ながら立地の心配をしてみる。
(客層が違いすぎるか……しかしこれ、すごいな)
べたべたと何枚も重ね貼りされたポスターには、半裸の女性が悩ましいポーズを取り、その周りには扇情的な文言が躍る。
しげしげと眺め、思わずつばを飲む。
仲井と付き合って以来、女性に興味は引かれないのだが、薄暗い雰囲気に淫靡な気持ちを押されないこともない。
(たまには……いいよな?)
この手の場所に足を踏み入れるのは初めてだった。
「大人一枚」
チケットを受け取り、物憂げなもぎりの男に半券を渡す。治は中に入った。
□■□■
上映は始まっていて、スクリーンでは既に痴態が繰り広げられている。もっとも、ベンチに毛の生えたような粗末な客席では、長時間の鑑賞には不向きだろう。とりあえず治は手近な場所に座った。
(うわぁ……)
大仰に嬌声を上げる女性の姿は、劣情を感じるというよりはもの珍しかった。治はしばらく映画に集中する。
ストーリーなどほとんどなく、画質も悪酔いするほどの安っぽい内容だが、情交の場面をみていると、自身の体験とリンクしてしまう。
(あ……え、あの格好って……わ……)
仲井のことを思い出し、一人赤面する。
(オレもあんなに声出してんのかな……うぅ、なんだか恥ずかしくなってきた……)
画面を正視できなくなってしまい、なんとなく場内を見まわす。
薄暗さに目が慣れれば、無人かと思った場内にも、ひとりだけ客がいた。
(確かに、友だちといっしょに見るようなもんじゃないよな、これって)
別のシーンの濡れ場が始まる。今度は温泉で浴衣を着たままというスタイルなので、映像的にはさらに地味である。しかし、時折のぞく肌の色がやけに眩しく、視覚を刺激する。
(温泉か……行きたいな……)
治がとりとめなく、そんなことを思ったとき。
「はぁ……はぁ……」
(な――何?!)
いつの間にか、もう一人の客がすぐ後ろの席に座っている。治は心臓がひっくり返るかと思うほど驚く。
(何? なんなんだ? だって、さっきはあっちにいたのに……なんでオレのとこに……なんで……オレの……)
振り向くに振り向けず、まさに混乱の極み。得体の知れない恐怖が登ってくる。
(な、なんだよこの人! ……あれ?)
耳元で段々荒くなる息遣い。一定間隔の衣擦れの音。どうやらその男は、画面を見ながら、自らを慰めているらしい。
(ええええ?! そりゃあ、まあ、こういう内容だし……そういうこともあるんだろうけど、だってここ映画館だろ……)
落ち着こう、自分を納得させようと考えるが、自分の中の理は相手には通じない。治は気が遠くなりそうだった。スクリーンに意識を向けようとしても無理な話。どうしよう、もう出ようか、そう考えたときだった。
「……っ!」
(――?)
立ち上がり、後ろの珍客はそそくさと帰ってしまう。
(あれ? ――なんだ、良かった)
シャツの背に何かが当たった気がしたが、きっと出て行く時に手でもぶつかったのだろう、そう思った。
(あー、ドキドキした。客が少なすぎるのも考えものだな……)
ほっとしたのも束の間。何気なく背中に手をやった瞬間、治は自分の身に起こったことに気づいてしまう。
「信じられない……」
ねとついた指に血の気が失せる。シャツには、変態男の精液がべっとりとかけられていた。
□■□■
「今日は出かけとったんか?」
――夕刻。
店を訪れた仲井は、治の浮かない顔に気づく。
「どした? なんかあったんか」
「別に……」
煙草に火を点けながら治の隣りの定位置に座る。
「そげな顔して別にってことはないたい。――なにたい、言ってみぃ」
優しく促され、治はぽつぽつと事の顛末を話し出した。
胸のつかえがとれ、少し元気を取り戻した治と対照的に、険悪な顔になっていく仲井。押し殺すように言う。
「……どういうこっちゃ」
「オレ、平気だよ――あんなの別に……何でもない」
「何でもないってことはないばい」
「オレが我慢すれば済む話だし」
「そういう問題やないたい」
「何がだよ」
映画館で洗った濡れた服のままで帰ってきた治。部屋でもう一度洗濯をした。体はまだ温まりきっていないようだった。
「はぁ……もういいよ」
「――おいが」
不快な体験を思い出し投げやりな治に対し、仲井の方が振り絞るように言う。
「我慢できんたいっ」
「何怒ってんだよ?」
「怒ってないたい」
「怒ってるじゃないか。もういいって言ってるだろ。仲井には関係ないことだし」
突っかかる筋合いではないが、どこかでイラつく気持ちをぶつけたかった。治は不機嫌な態度を隠そうとしなかった。
「じゃあ言うばい」
残っていた煙草を一吸いして、仲井は治を見た。
「治はんは――隙だらけなんよ」
「はあ?」
「あんな悪所に、あんさんみたいなんが一人でのこのこ行ったら」
「オレみたいってなんだよ!」
仲井は答えずに煙草をもみ消し、言葉を継ぐ。
「そんなん、襲ってくれって言ってるようなもんたい」
「ば……馬鹿にするなっ!」
「ホントのことを言ったまで」
突然仲井は治を押し倒し、馬乗りになる。腕を押さえつけられ、治はもがいた。
「なっ……いきなり何するんだよ! 離せって!」
「馬鹿にしとるんやなしに――ことによっちゃ、こういう事態だって起こりうるってこと」
「そんなわけないだろ! あんな場所で」
「あんな場所だからたい」
仲井が冷静に言うと、暴れていた治は動きを止める。
「えっ? どういう意味だよ」
「あすこは――『そういう場所』なんたい。客一人だったばってん、まだ良かった」
「それって……」
仲井は説明する。あの映画館はその筋の人間には、いわゆる発展場として認知されているらしい。平日の昼日中だったからその程度で済んだが、邪まな連中が待ち構えていたなら、嬲りものにされていたかもしれないという。いくら治が抵抗したところで、二人、三人がかりではどうしようもない。
「おい一人に何もできん治はんが、どうにかなるとも思えん」
「くっ……」
悔しさの滲む顔で頭上の相手をにらみつける。しかし、仲井はゆっくりと尋ねる。
「なして……一人で行ったと?」
「言ったろ、何となくだよっ」
「ほうか」
それきり仲井は黙った。
「仲井……?」
訝しがる治をしばらく見つめ、仲井は手首を掴んだまま、首筋を甘噛みし始める。
治はそっと目を閉じた。一瞬で頑なな感情が溶けていく。治の力が抜けたのを感じても何も言わずに、仲井は照準を耳殻へ移す。
「……うっ……」
べろりと舐め上げられるだけでなく、普段よりもきつく歯を立てられ、声をあげる。
「んっ……痛……やぁ……」
痛みに耐えかねて反対を向けば、そちら側まで執拗に責められる。治は首を振っていやいやをするが、手を押さえる力が緩められることはなかった。
「なん、で……」
再び首筋に移動した仲井は、今度は甘噛みだけでなく情交の刻印を残す。
自分では見えなくとも、歯の跡に加え、肌を吸われた印までが赤黒く残っていることは容易に想像がついた。明日も店はある。人前に立たねばならないというのに。
「ね……仲井……俺っ、困る……」
治のシャツを肌蹴た仲井は、胸元に顔を埋めたまま黙って同じ行為を続ける。敏感な突起を優しく口に含み、手首を抑えていた力がゆるめられる。責め苦から解放されたと思い、治は恐る恐る仲井の背に手をまわした。
「ん……」
欲が集まり、乳頭が固くなり始める。反対側を手でつままれ、押しつぶされると、思わず身を捩らずにはいられなかった。
「あっ……や……」
痛みと同時に与えられる快楽は治を混乱させた。困惑と羞恥の混じった嬌声が嗜虐心を煽るのか、仲井は再び治の体に歯を立てる。同時に足の付根に手を滑らせ、腿をす、となぞる。
「んぅっ……」
反射的に声を漏らす治。その反応を見る目はどこか冷ややかだった。弄って欲しいところでなく、周辺にばかり刺激が加えられる。治の中心はゆっくりと硬さを増す。
「仲井ぃ……」
返事はない。前戯というには明らかに行き過ぎた痛み。その熱に翻弄されながらも、追い上げられ、これからされることへの期待に昂ぶっていく。期待の根底にあるのは、幾度となく体を重ねた相手への信頼。理屈ではなかった。そして、無言の先にある心情を、治は全身で感じていた。
「っ……はぁ……」
下衣が剥がされる。双球までもやわらかく揉みしだかれ、治の分身はいよいよ張り詰めていく。――だが。
行為の途中でも仲井は口付けを落とすのが常だった。今日はまだ一度もない。気になりだすと、そのことばかり考えてしまう。
愛撫は絶え間なく続いているのに、なぜか頑なに唇を避けられ、治は堪らずに自分の拳を吸う。満たしてもらえない代価。仲井にして欲しくて自らの指を舐める。
「……んくっ……ん……あ」
そのことに気づいた仲井は、治の口から指を取り上げてしまい、自分の口に含む。
(そっちじゃ……)
顔を伏せ、指を喰む相手の唇を撫で、朦朧とした表情で吐き出す。
「キス、してよぉ……」
ゆっくり顔を上げた仲井に真剣な目つきで見下ろされ、一瞬、たじろぐ。
だが、頭の中は満たされたい思いではち切れそうだった。求めているのに与えられないことに、治は困惑する。
「――して欲しいんか」
「うん……」
顔が近づく。顎を抑えられ、触れ合ったと思った途端に、待ち焦がれた温みで口腔が満たされる。貪るような口付けに蕩けていく。溶かされていく。夢中で自らも舌を絡める。歯が当たる、その音まで吸い尽くしたい、相手を喰らい尽くしたい。治の心の奥にある情念がちら、と煌めく。
「治…………治……」
繰り返される自分の名前。目に、鼻に、頬に唇が落とされる。自分が求めるのと同等に、いや、もしかしたらそれ以上に深く求められている今。この瞬間に。治は気づく。
「あ……」
仲井は――自分が好きなのだ。
そして自分も……この男が欲しくて堪らなかった。全身が焦がれている。
それなのに何故躊躇していたのか。またどこかで何かを保留していたのだろうか。
首に腕を回してすがり付く。治はもう一度口付けを求め、仲井もそれに応えた。
「……仲井」
熱の篭った声で呼べば、仲井は体を起こす。自分と治の雄身を二本いっぺんに握り込む。
「あっ……それ……」
治も思わず自らの股間に手を伸ばす。先走りの汁が止め処なく垂れ、すぐにでも達してしまいそうだった。
「ねぇ……なか……い……オレ、いっちゃう」
仲井はそっと、治の手をどかすように促した。そして自分の竿だけを持ち、治の中に押し込む。一体となる嬉しさに、ぎゅっと抱きつく治。
「ほれ、それじゃ動けんたい」
「――うん」
映画のシーンを思い出す。あの主人公も、自分と同じように気持ちよかったのだろうか。 仲井が見ている。己はいったいどんな顔をしているのか。どんな姿で乱れているのか。
「ああっ……あん……っ!」
何回か押されただけで、白濁が散り、腹に落ちる。仲井がその上に体を重ね、間髪入れずに抽挿を繰り返す。
「……あっ」
角度が変わり、治は再び射精の高みに導かれる。律動。息遣い。煙草の匂い。温度。自分は多分、この男に調教されてしまっている。この男にしか満足できない体になっている。
「オレ、また……いっちゃ……」
「んっ」
「なか、ぃ……」
押される度に、頭の中で何かが弾けるようだった。底知れぬ悦楽。だが、仲井が与えてくれるのなら恐しくはない。治はただ、相手に身をまかせる。
何度目かの絶頂を迎えたとき、自分を呼ぶ声と体の中に精が注がれるのを感じた。
息が整うまで、二人ともしばらく動かなかった。やがて、治がぽつりと言う。
「オレ……仲井になら……何されてもいいのに……」
「――あ?」
「怖かった」
「ああ」
そのまま仲井は治を抱きしめた。頭に手を回し、何度も撫でる。
「嫌だった」
「ん」
「やだった」
「ほうか」
「気持ち悪かったんだよ」
「ああ」
気が抜けたように繰り言を重ねる自分に付き合ってくれる。まるで子どものように慰められると、ここが自分の居場所のような気さえする。
「オレ、情けないね」
「――もう一人で、行くな」
「うん」
「行かんでくれ」
治は頷き、甘えるように囁く。
「じゃあさ」
声音にいつもの調子が戻る。
「今度の休みは花見、いっしょに行こう?」
「はあ? 来週なんかもう散っちゃってるたい」
仲井は体を起こした。
「大丈夫大丈夫、それがいいんじゃないか」
「やっぱり治はんは天ん邪鬼たい」
「うるさいの。それとも温泉にする?」
「何言ってるたい、ホンマに……」
仲井が、自ら付けた桜色の痕に唇を這わせる。治はぞくりとする。
「それ痛いよ……でも」
「……ん」
「今度はオレも跡つけるからね!」
「な、なにたいそれ……」
顔を上げた仲井は、どこか照れたように言う。
治は、なんだかうれしくなった。
そして――本当に噛んでやろうと思った。
(了)
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いやー、治が自分の気持ちと仲井の気持ちを初めて理解したくだり、感動しちゃいました。良かったー。なんだか嬉しいです。しかしこうなってくると最終回近いんじゃと心配に・・・。まだ続きますよね?