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「おい治っ!! タバコ買って来い!」
「ええっ? この雨の中をですか?」
「関係ねえだろっ、切れちまったんだからよ。第一、もうそんなに降ってねえよ」
「勘弁してくださいよお、俺、金ないんですから……知ってるでしょ」
口答えが気に食わず、思わず声を張り上げる。
「何だと? 先輩の言うことが聞けないわけじゃないよな?」
「ぐっ……」
目に涙を溜めて、すぐ半べそになるくせに、そこから先――本格的な泣き顔は見たことがない。さすがに小さい子供ではないのだから当然ではあるが、それがどこかもどかしかった。
(気に入らねえ……!)
自分がなにに苛立っているのかよくわからない。
中途半端に弱った顔をする目の前の後輩なのか。
単調で色気のないこの生活なのか。
それとも弱いもの虐めで鬱憤晴らしをしている自分になのか。
治はしぶしぶ立ち上がる。
「でも、俺ホントに……」
「しょうがねえ、じゃあこれ……釣りはいいからよ」
小銭を渡すとほっとするような顔をする。
「あ、ありがとうございます」
何故礼など言うのだろう。たかだか何十円のことで。
こっちは使い走りをさせているというのに。本当に馬鹿なんじゃないだろうか。
いっそ殴りつけてやれば、スカッとするだろうか。こいつは泣くのだろうか。
果て無く続く疑問を打ち切るように、地べたに這い蹲り、治が自分に許しを乞うところを想像してみるが、別段楽しいものではなかった。
「早くしろよっ」
「はい!」
自分の部屋に戻る。財布をテーブルの上に置くと、川島は、一度舌打ちをしてからごろりと横になった。
馬鹿が。たまに甘い顔見せれば、すぐに気を許すようなことを言いやがって。
やはり――あいつは金づるなんだ。
治はいいカモだった。それは間違いなかった。
そして、治より騙しやすい人間が現れたら、そいつから金をむしるだけである。
同僚たちと組んで、麻雀でターゲットから給料を巻き上げる。三人で分けるからたいした額ではないが、それでも当座の遊ぶ足しにはなる。
そうだ。――来月も再来月も、ずっとむしってやる。ずっと、ずっとだ。
雨はいつの間にか上がり、重く垂れこめた雲の切れ目から、陽光が漏れている。
そして。
空にはうっすらと虹がかかっていた。中空から霞んだ地面にまで届く大きな半円を描いている。
しかし窓に背を向けた川島が目にすることはなかった。
(了)
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