◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。
◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意
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部屋の窓から見る空は、電線によって小さく刻まれている。
そんなことに気づいたのは、川原で寝転んだとき、広い空を見たからだろう。
煙草に火をつける。
仲井はふと、治を試してみたい衝動に駆られた。
できるだけ、何でもない調子で言う。
「そういや、この前アカギはんに会ったばい……」
「えっ!」
麻雀の本を仲井に寄りかかって読んでいた治は、短く声をあげ、言葉の主を見つめた。
仲井もちらっと相手を見る。
期待に満ちた瞳は、仲井を無言で質問攻めにしていた。耐えきれずに言葉を継ぐ。
「――相変わらずだったばい、あの男は」
「そうか……元気なんだね、アカギさん」
満足そうに呟き、目を本に戻す。
しかし、それだけだった。治はそれ以上その話題に触れずに本に没頭しているようだった。だが、仲井にとってはそのことが逆にもどかしく感じる。
「なんで……」
「ん?」
「なんで、アンタらはそうなんたいっ!」
「何? アンタら――って誰?」
どうして。
そんな顔を、治にされたくないのに。
聞きたくない。
聞いてみたい。
仲井の心はタイル細工のように千々に砕けては、複雑な文様を描く。
怒ったように聞く。
「アカギはんに会いとうないんか?」
「えー? そりゃ会いたいさ」
「――え?」
煙草を口に持っていこうとする手が止まる。
自分でもどう整理してよいか分からない感情。これは勝利の気分――なのか?
「やっぱり――そうなんか」
「でも」
治は大真面目な顔で言う。
「――今は特に用も無いし」
息を呑む。我知らず、手が震えるように感じる。もっともこれは、外の寒さのせいかもしれなかった。
「近くに来たんなら、寄ってくれればいいのになあ。まあ、アカギさんて、そういうタイプじゃないけど」
治がぶつぶつと文句を呟くのを聞きながら、仲井は再び敗北を噛み締める。
踏まなくてよい、虎の尾――。
くしゅっ!
治が小さくクシャミをした。
「あ、寒いんか?」
立ち上がって窓を閉めようとする仲井に、治は本から顔も上げず、ぐっと体重をかけて制する。
「大丈夫だよ。仲井あったかいからな」
「――なにたい、それ」
時折聞こえる休日の喧騒。ページを繰る音と柔らかな重み。
仲井は目をつぶって煙草を吸い込む。それからゆっくり目を開ける。
吐き出した煙は窓の外に漂い、青く滲んでいった。
(了)

川沿いの道をぶらぶらと歩く。冬晴れの暖かい日だった。
仲井は足を止めた。
土手に寝っ転がっている白髪には見覚えがあった。
思わずそばに降りていく。歩くたび、枯れ草混じりの雑草が乾いた音を立てる。
「アカギ……はん」
「ん?」
昼寝の主は薄目を開ける。
「仲井か」
「へへ……」
仲井はアカギの隣に腰をおろした。ポケットの煙草を探るが、あいにく切らしていた。アカギが差し出した一本をもらう。
「すまんたい」
そう言って、自分とアカギの分の火を点ける。
「元気そうやな」
アカギは何も言わずに寝そべったまま煙を燻らす。
遠い川面で魚が跳ねる。二度、三度。
しばらく仲井は無心で眺めていた。
かつて。
自分をどん底にたたき落とした男の隣にいることを、束の間忘れていた。
アカギは突然言った。
「治は――元気か」
「えっ」
必要以上に大きな声を出していた。いつの間にかアカギは自分をじっと見つめている。この男はどうして、何でも見透かしたような瞳をしているのだろう。
「……あ、ああ、元気たい」
思い出したように煙草を口にやる。鼻から煙を吐き、それから仲井は聞いた。
「――会わんのか」
「ん?」
「治はんに」
アカギは再び黙る。聞いているのはこっちの方なのに、勝手に心がざわめいていく。息が詰まるかと思った瞬間、アカギが答えた。
「用がないからな」
ここに居ない人間のことを何時までも話題にするのは、卑怯な気がした。それでも、仲井は言葉を継がずにはいられなかった。
「治はんは――会いたがってたばい」
「あん?」
仲井の一種必死な表情をちら、と見て、アカギはのんびりと煙草を吸い込む。それから、目をつぶって煙を吐き出し、答えた。
「あいつは、そんなこと言わねぇだろ」
川面には、大きな川鵜が舞い降りる。光を反射する水面にあって、まるでそこだけ真っ黒な色を塗ったようだった。羽ばたく音がここまで聞こえてくる。仲井は小さくつぶやいた。
「そうだったかも――しれんたい」
無意味な敗北感。
自分は何を期待していたのか。この男に何と言って欲しかったのか――。
「はぁ~……」
仲井は大きくため息をつき、アカギと同じように寝転がった。
急に視界が開ける。
雲ひとつないどこまでも続く天蓋。
まるで空が落ちて来るようだった。
――この青は自分には眩しすぎる。
「目がくらみそうたい。あんさんは――いつもこんなものを見とるんか」
仲井が言うと、アカギは目を開け、空の奥底を見据える。
「フフ……まあ、そうだな」
煙草を吸い終えた仲井は立ち上がる。それから取り出した札を手渡す。
「煙草代」
「ああ――悪いな。文無しだったんだ」
仲井は呆れたようにアカギを見る。
「ホンマに、かなわんな――あんたには」
雑草を踏み分け、土手を登る。仲井はもう一度アカギの方を振り返る。
白い髪が揺れ、それから、自分の頬を暖かい風が撫でた。
(了)

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