◆男性同士の恋愛(エロ含む)などを扱っております。
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◆福本作品の二次作品中心です。個人ページであり、作者様・関係者様とは一切関係ありません。
◆作品にならないスケッチあるいは管理人の脳内妄想だだもれ意味不明断片多し注意
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中に通されたのは初めてだった。
笑ってしまうほど何もない部屋。しかし、床に直置きされた大量の本と雑誌に圧倒される。
「――すごいな、これ全部読んだの?」
「当り前たい、読まない本買ってどうする」
「それはそうだけど」
多くが麻雀関連のものだが、大衆紙もたくさんあった。
そう言えば治の店に来た時も、ヒマさえあれば牌をいじりながら新聞を読んでいる。
「仲井って雑誌とか新聞好きだよね」
「好きっていうか」
仲井は吸っていた煙草を、机の上の灰皿で揉み消しながら言った。
「何するにしても、情報は大事たい」
「ふーん」
「でもまあ、麻雀は実際打つしかなか。本じゃ基本のキしか身につかん」
「うん……」
「――少し整理せんとなぁ、これ」
ぶつぶつ言いながら、床にばらけていた何冊かを積み上げる。
その横顔を見ながら、治はなんとなく、目が覚めたような気分になる。
(やっぱり、仲井ってスゴイんだ……よな)
仲井と親密になり、近づいたと思っても、それは錯覚。自分の手の届かないレベルで、彼は更に研鑽を続けているのだ。
そして、その仲井でさえ凌駕する存在も、この世には存在する……。
特に深い考えもなく今の商売を始めた。もちろん、治は治なりに、毎日一生懸命勤め上げてはいるつもりである。しかし、日々麻雀に真摯に取り組む多くの輩と接していると、やはり自分はどこか甘いのだろうか、と考えてしまう。
正座を崩さず、拳を膝の上で握ったままでいる治を、仲井は訝しむ。
「――どした? 急に静かになったばい」
治は黙っている。
「腹でも減ったか? ん~、つまみくらいしかないたい」
コップと焼酎を机に置き、仲井は治の隣に座る。
「――仲井」
「ん」
自分を呼ぶ声に熱を感じ、仲井は顔を傾げて唇を重ねようとする。しかし。
「お、俺さっ!」
切迫したような口調に、仲井は寸前で顔を離した。
「?」
「俺ってさ――何なの?」
「は?」
「アカギさんに憧れて、職場飛び出して、でもやっぱり付いていけなくてっ」
仲井は黙って聞いている。
「成り行きで――店始めて、半端に麻雀と関わって、仲井と……仲井と……」
「おいと?」
治は口をつぐむ。
「なに、はっきりせんたい」
「だって」
「それに半端にってなにたい。おどれ、そんな気持ちで店構えとんのか」
「そうじゃないけど……」
「じゃあ――」
治は、振り絞るように言う。
「――ときどき、俺なんかが、ここにいていいのかって思うんだよ! それに」
治の声は小さくなる。仲井は眉間に皺を寄せ、険悪な表情になる。
「俺って……仲井のなんなのかなって――」
「ああ?」
(つづく)

――深夜。
仲井のアパートの前にやってくる。今日も明かりがついていない。
(まだ戻ってないのか)
遠くから確認は出来ていたものの、つい近くまで来て、チャイムまで押して確かめてしまう。どこか地方に用があるということで、仲井はここ数日留守だった。
これまでも、仲井がしばらく店に顔を見せないことなど度々あったのだが、年末から正月にかけて、ずっと一緒にいたせいなのか、どうしているのか気になってしょうがなかった。
(つまらないなあ)
軽くため息を付き、自分の家に戻ることにする。昨日も一昨日も、ムダ足を運んだだけだった。――が、今日はそうではなかった。
「――あ」
「ん?」
嗅ぎ慣れた煙草の匂い。家主が帰ってきた。
「仲井ーっ!」
思い切り抱きつく。
「治はん? ど、どしたと?」
びっくりした仲井は治の肩に手をかけた。
「もう、どこ行ってたんだよ! 俺、寂しかったんだぞ」
「どこって……」
いつもよりは大分高レートの勝負。まあ半分は人数合わせのようなものだったのだが、さほど腕の立つ面子ではなかったとのこと。
「駅から遠くて、参ったばい」
「――で?」
仲井は治を見てにやりと笑う。
「勝った」
「そっか、おめでとう」
ほっとした顔を見せる治。そういった麻雀は危険なこともあるということを、当の仲井から聞いたことがあったのだ。
二人は至近距離で目を合わせる。
治はそのまま顔を寄せようとする。しかし、仲井はかろうじて押し止める。
既に深夜を廻っている時刻。それでも往来には人の目もある。口に煙草をやりながら仲井は言った。
「ま、とにかく中、行こうたい」
治はこくんと頷く。
「――で、お土産は?」
「は? お土産って……。そんなヒマあるわけなか」
「なんだよーっ」
甘えるように言う。もちろん、期待はしていなかったのだが――。
仲井が鍵を開け、二人は部屋に入った。
(つづく)
あとがきあります
つづきはこちら
「いらっしゃい」
「世話になるよ」
治の雀荘に、見知った顔が何人かと連れ立って入って来た。
席につこうとした男に、後ろから背中をつつき、こっそりと囁く。
「なあ、仲井は?」
この男と仲井はイカサマの『ぐる』である。一応、治の店では表立った悪さを禁じているが、仲井と通じていることはあくまで内緒なのだ。
「あれ、知らないの? 今やつ、遠征中よ」
「そうなのか?」
「どっか南の方行くって」
「――ふうん」
表情が少し曇る。仲井と治とのことは、常連にはそれとなく通じている。男はからかう口調になった。
「なんだ店長、そんなに寂しいなら、俺が慰めてやるよ。くくく……」
「ばーか、言ってんなよ」
「だって、顔がひきつってるもの」
「この顔は生まれつきだよっ」
軽口であしらいつつも、仲井が近くにいないという事実は、治を本当に寂しい気持ちにさせる。 おしぼりを持って行き、飲み物の注文を受けながらぼんやり思う。
(どうしてなんだろう)
お互いに、別の道を行く二人。
仲井は治のやることなすこと、いつも細かく言うのだが、自分のやっていることについてはあまり語らないし、治も聞こうとしなかった。
住んでいるところは知っている。しかし、それだけだ。年すら知らない。会って話す内容は、大抵麻雀のこと。
(そんな恋人ってないよな)
本当に。
自分は仲井のなんなのだろう。仲井にとって自分はなんなのだろうと思う。
そばにいれば、体を重ねていれば。
余計なことは考えずに済むのに。
(う~ん。もしかして俺、仲井が心配なのか……?)
自分の気持ちを言葉に置き換えようとするが、どうもうまくいかない。
(俺頭悪いのに……あんまり……悩ませるなよな……)
治は、ついに溜息をついた。
「――あ、そうだ」
ヤカンに水を汲み、カウンターの花の隣に置く。
仲井がこの店に持ってきたものだった。後で聞いたところ、大勝ちしたご祝儀に持ってきてくれたとのことだった。
枯れた花を摘むと、少しだけさっぱりする。それから根元にちょろちょろと水をかける。
(今度もお土産……持ってこなかったら承知しないぞ……)
治の口元は、少しだけ緩んだ。
(了)

赤いネオンが流れていったのを最後に、車窓の外には何も見えない。人家の明かりもないということは、畑か田んぼでも広がっているのだろうか。暗い窓には自分の顔が映る。
仲井は地方の好事家によって開かれる賭場に向かっていた。毎日雀荘に入り浸っていれば、時には高レートの勝負へ声がかかることもある。
ヤクザ連中が混じることもあるし、もっとタチの悪いやつらもいる。後ろ盾のない仲井にとって、そういった面子と打つ危険は百も承知だが、身一つの気軽さで、呼ばれればどこへでも行く。
大抵は金でカタがつく話のわかる連中だが、血の気の多い者はそれではきかない。
しかし、そんなのは範疇だった。
もちろん仲井とて命は惜しい。少々危ない橋を渡るのは仕方がないが、兎にも角にも命と金。それさえあれば、なんとでもなると思っていた――これまでは。
深刻な己の顔を見れば、思わず笑いがこみ上げる。
(――大仰やな。まるで死地にでも赴くようたい)
自嘲的に嘯くが、自分でも気づいていた。
勝負に対する心構えがまるで違う。
決着のその先に。
帰りたいのだ。勝って。
あの男のもとへ。
また一つ、自分は欲深くなったようだ。
窓の向こうには、再び明かりがちらついてくる。
自分の顔がぼやけたと思った時、のんびりした声のアナウンスが聞こえた。
もうすぐ到着だった。
(了)