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【ホモエロ がっつり注意】
【弐】
翌日。
二人は、川田組の紹介で、傘下のとある組の事務所を訪れた。そこでは、定期的に麻雀賭博を行っていて、時には腕の立つ雀ゴロも寄り付くらしい。平山はここで代打ちとして飼われることになった。
「……じゃ、後のこと、よろしくお願いします。……おい、挨拶」
「あ、ああ……。よろしくお願いします……」
安岡が事務所を出て行こうとすると、平山は呼び止める。
「おい、どこ行くんだよ……」
「どこって……俺は仕事に戻る。お前はしばらくここで厄介になるんだ。また連絡する」
「平山君、だったな。いろいろ事情は聞いてるよ。まあ、うちは素人相手の商売だから、何の問題も無い。君の技術、当てにしているから……」
ぽんぽんと肩を叩いて話しかけられても、組長の言葉は耳に入っていなかった。
見捨てられた――。そんな安っぽい思いが平山を支配する。
(くそっ! こんなところでくすぶってる場合じゃねぇのに……)
平山は拳を握り締めた。
◆◇◆
食客扱いの平山は、時々呼ばれて麻雀を打つ以外は毎日ぶらぶらし、昼はパチンコ店などで暇を潰した。
ブームの時期だったとはいえ、現在と違い、当時のパチンコ台はまだまだ牧歌的。釘の開け閉めは店との駆け引きとはいっても、台の癖を知り釘さえ読めれば、おおよそ出る、出ないの見当は付く。全ての台の状態を、毎日記憶できるような平山にとっては、児戯に等しかった。
出ると分かっている台に座り、存分に玉を吐き出させる。いわば蹂躙。面白くはない。しかし、物言わぬ台を相手にしていると、平山は気持ちが落ち着く。
山ほどもある景品の菓子を抱えて平山が公園にやってくると、好奇心旺盛な子供たちが寄ってくる。
「わーすっげー……」
「アンちゃん、お菓子屋さん?」
「……馬鹿、違う」
相手をするのも面倒臭い。子供は苦手だった。
「わかった! パチンコで取ったんだ。僕の父さんもお土産くれたことあるもんっ」
甲高い声に、平山はいらいらした。煙草だけを取り出して、袋を投げつける。
「お前ら、それやるからあっちへ行けよっ!」
「ええぇーっ! ホントにっ?」
散らばった菓子に群がる子供たち。
「ボク、チョコレート! チョコレート!」
「早く行けよっ!」
「サングラスの兄ちゃん、ありがとう!」
子供たちはわぁわぁと、突然の幸運に騒ぎながら駆けていく。
「ったく……うるせぇ」
どっかりとベンチに腰をかけると、近づいてきた一人の男が隣に座る。
「ずいぶんと豪儀だな……」
「なんだい、アンタ……?」
話しかけてきた男は、安岡と同年代くらいだろうか。パンチパーマの見るからにヤクザといった風体。着ているスーツを見る限り、下っ端というわけではなさそうだった。
男は仰木と名乗った。
仰木は平山に煙草を勧め、一本銜えてライターで二人分の火を点ける。煙を吐きながら、平山の雇い主である組の名前を出した。
「あそこでは時々遊ばせてもらっている。――確か新しい代打ちを雇ったとか」
「ああ、それが俺だ」
仰木はパチンコのことも話題にする。
「うちのシマで馬鹿勝ちしている若者がいると聞いたものでね」
「あんなの……ただの遊びだ」
「これは頼もしいな」
しばらく二人とも煙草をふかす。平山が吸い終わる頃、仰木がもったいぶったように言った。
「……才気を持て余しているのなら、もっと楽しい――ギャンブルを教えるぞ」
「ギャンブル?」
ギャンブル……。
かつてあの男……アカギは、平山がギャンブルの土俵に立っていない、と断言した。
アカギの言うギャンブル。それは意味も無く命や体を賭けるという、馬鹿馬鹿しい行為。平山には到底理解できない愚の骨頂。金を賭けるならともかく、そういった無為な危険を冒すことをギャンブルというのなら、平山はそんな土俵に立ちたいとも思わなかった。
「ある場所で……ある人と、麻雀を打つだけだ」
仰木は背広の胸から手帳を取り出し、ぱらぱらとめくる。きっとその「ある人」への連絡先が載っているのだろう。
「もちろん、リスクはある。そっちさんの組の方には内密にしてもらわないといけない。しかし勝てば大金が手に入る。代打ちで得るようなはした金とは比べ物にならないくらいの……大金がね」
仰木の手帳をちらっと覗く。そこにびっしり書いてある数字は電話番号のようだ。
「その人は……退屈している。大金を賭けたギャンブルだというのに、まだ成功させた者はいないのだから……」
「ギャンブルね……」
平山は自分の煙草を取り出した。カチリ、と仰木がすかさず火をつける。
「で、あんたは幾ら貰える訳なんだ?」
「ははは……参ったな」
「きっと仲介料も相当なんだろ」
「まあ、そんなとこだ」
仰木はにやりと笑う。平山はやれやれ、と思った。自分に近づいてくる奴等はみんなこうなのだ。自分を利用するだけ。言うコトは金、金、金……。
(それは……あの人も同じ)
平山の心はちりちりと焦付く。
「ふん。……で、リスクは?」
「それは」
「はっきり言え」
カタギでない者をごまかしても無駄と思ったのか、仰木は条件を言った。
「この勝負はこちらが担保を貸して成立する。自動的に、負ければ借金ということになり、払えないものは強制労働など……」
「そうか、まあお定まりのコースってわけか」
平山は煙草を足で揉み消した。
「でも生憎だな、俺はギャンブルなんか興味ないよ」
「……ほう? それは……代打ち稼業の人間とは思えない言葉だな」
「ははは……そうだな」
晴れ晴れとした顔で笑った後、サングラスの下の目がふっと翳る。平山はひとつだけ尋ねた。
「なあ。そいつ……負けたことがないって本当か」
「ああ……ギャンブルでも……おそらく、人生でも、な」
ふーん、と平山は素直に思った。
「そんなヤツもいるんだな」
「そうだ……この世は広い。しかし、頂点は常に一人……」
「一人、ね」
結局、その場では興味が無いような振りを装い、平山は仰木の勧誘を断った。しかし、その謎の対戦相手の連絡先は、しっかりと記憶していた。
◆◇◆
「鷲巣?」
「ああ、知ってるか?」
「知ってるかも何も、知らない人間がいる方が驚きだ。お前、あの鷲巣巌を知らんのか」
鷲巣巌――。
齢七十五歳、その卓越した先見性で戦中・戦後の混乱を乗り切り、途方も無い財を築いた怪物。妖怪。この国の、黒幕ともいえる人物。
「またガキ扱いすんのかよ」
拗ねたような言い方をする平山を安岡は笑う。起き上がって煙草を揉み消した。
「全くガキだな……ほら、抱っこしてやるから来い」
胡坐をかいた上に平山を乗せた。馬鹿にされても平山は素直に従う。
「お前は聞き分けだけはいいな」
「……うるせぇ」
この男には何を言われても構わない。ちっぽけなプライドなんか帳消しにするほどの悦楽を与えてくれると分かっている。しかし口では抗ってみせる。平山が唯一、甘えられる存在。
好景気に当て込んで新築された街中のホテル。外回りの安岡に誘われ、平山は一も二も無くのこのこ付いていき、既に一戦交えた後だった。
「……で、その鷲巣がどうしたって?」
耳元で尋問する刑事に、平山は、仰木に会った経緯を話した。手帳にあった電話番号に片っ端から当たってみると、その中に、鷲巣巌への個人的な連絡先があったと説明する。
「稲田組の仰木……まあ、いろいろ噂はある。鷲巣との繋がりも……聞いたことがある」
安岡には言わなかったが、平山は実際に連絡を取ってみたのだった。
無論、本人が出たわけではないが、賭け麻雀の話を匂わすと、仰木経由の紹介かどうかを、何故かしつこく聞いてきた。
「鷲巣か……」
安岡の声音がわずかに深刻味を増した。しかし、足を開かれて前方を弄られている平山は気付かなかった。
「ぁあ……それ……気持ちい……」
すぐに臨戦態勢になる平山の分身は、早くも涎を垂らしている。一番敏感な首を弄られながら、だらだらと垂らした涎を双球や下の穴にまで塗り籠められると、平山は腰をもぞもぞとくねらせる。
「早く……入れ……てよ……」
嬌声に煽られてか、安岡自身も徐々に猛る。しかしあくまで冷徹な声で平山には念押しをした。
「幸雄……、お前はそんなことに首を突っ込むんじゃない。俺に任せておけばまた幾らでも稼げるチャンスを持ってきてやる……だから待ってろ」
安岡はそう言いながら平山の腰を持ち上げ、肉欲を突き立てた。
「……ぅあぁっ!」
自重によって深く貫かれる。さらに膝裏を抱えられ、不安定な体勢になる。
「おい……、あっち見てみろ」
安岡が指差した方には、小さなドレッサー。その鏡に映るのは己の浅ましい姿。
「……えっ……やだ……よ……こんな……」
まるで幼児が小便をさせられているような体勢で、何度も突き上げられている。
流石に羞恥の念が沸き、カッと色の白い肌が朱に染まる。が、それも一時。
「あぁ……あん……あん……止め……」
鏡には普段は見えないようなところまで映る。見たくない、でも見てしまう。そして、その恥ずかしさが快感を深めることにも気付いてしまう。
「なんだ……、いつもの元気はどうした」
「……もっ……や……あぁ……」
ぐらりと前方に倒れ、後背位になると、平山はもう止まらなかった。膝を付き、腰を淫らに振り、安岡を貪る。自分で自身を握りこむと、安岡も手を添える。快楽を穿たれ、ぎりぎりまで耐え、そして放つ。白濁が零れ、新しいシーツに染み込む。
しかし、体が満たされるのと裏腹に、平山の心の片隅は、空虚な思いに蝕まれていく。
結局、自分と安岡は、こうして体を繋げるだけ。安岡の歓心を買うには……勝つしかないのだ。
(だが、すぐにアカギとは勝負できないだろう。アイツは勝ち続けている。俺との距離は開くばかり。――だから。
アイツとやるには、一足飛びに俺が高みに上るしかない! 俺はもう待てない……っ!)
安岡は力の抜けた平山を仰向けにして、再び組み合った。安岡の重みが、平山を安堵させる。言葉に紡げない思いを、その人を呼ぶ声に籠める。律動が声を振るわせる。
「……や……安、岡……さん……っ」
(俺、勝つから……。
そしたら、もう一度……。
もう一度、俺と組みたいって言ってくれよ。
俺と一緒にやろうって……。なあ……)
安岡は平山に熱い奔流を注ぎ込む。
それが了承の返事だったどうか、平山には分からない。
◆◇◆
ホテルを出た途端、二人は安岡の同僚らしき刑事に鉢合わせする。
平山はなんとなく居心地の悪い思いをするが、同僚は心得た様子だった。
「安岡さん、聞き込みですか?」
捜査の一環だと思っているらしい。安岡は悪びれた様子も無く頷いた。
「そんなとこだ。……もう、行っていいぞ」
肩を叩かれ、平山は一人歩き出す。
「ずいぶんと派手なヤツですね……」
後ろで言っているのが聞こえた。
安岡さん……俺、もう負けないから。アンタが度肝を抜かす位、稼いでやる。そしたら、もうチンケな嘘なんかつかなくていいし、警察だってやめちまえばいい。
平山は前に進む決意を固める。
(再びここに戻ってくる時は、大金と一緒。こんな生活とはおさらばだ)
住んでいた場所も引き払い、平山は単身、鷲巣邸に赴いた。
◆◇◆
「……平山が消えた?」
「ああ。ここしばらく姿を見せない。呼びかけにも応じないのだ」
組長からの連絡に、安岡は頭を抱えた。
(全く、何考えているんだ、アイツは……)
自分の我侭が安岡の面子を潰すとか、そういうコトまでは頭が回らない。所詮はガキなのだ。しかし……。安岡の心には一抹の不安もよぎる。
(アイツ……ヤケを起こしてはいないよな……?)
そういうタイプの男ではない。それは安岡もよく分かっている。
安岡にとって平山とは、聞き分けの良い手駒。確かにビッグマネーは掴み損なったが、まだまだ利用価値はある。
しかし、まさか平山が、自分の為に危険を冒し、大金のかかったギャンブルに身を投じるなど、そんな考えは毛頭浮かばない。
「悪い奴にそそのかされでもしたか……? いくらなんでも、な」
保護者のような心境で、安岡は呟いた。
◆◇◆
「……本当に稲田組さんのご紹介ではないのですね?」
白服に念を押され、平山はむっとする。電話でも既に確認していたことなのだ。
「しつこいぞ。仰木には会ったけど、直接来ようと思って、断ったんだ」
「分かりました。それでしたら、担保はどういたしますか」
「金なら持ってきた」
平山はこれまでに溜めた小金を差し出す。
「大変残念ですが、この金額では足りません」
「そうなのか……? じゃあ、やっぱり仰木に頼んで……」
及び腰になる平山に、白服は冷徹に言った。
「それには及びません。平山様には、特別なルールの麻雀を行って頂けます。あなたの命を賭けた……麻雀です」
◆◇◆
死闘――。
いや、そう感じたのは平岡だけだったのだろう。
恐怖と圧力を背景にした鷲巣との闘牌に、結局、平山は屈する。
最後の血液が抜かれる。平山は抗う。
「やめろっ! やめてくれーーーーっ!!!!」
これを抜かれたら……俺は……死ぬっていうのか?!
命を賭けたギャンブルなんて……俺は最初っから、そんなもの求めていない。
俺が欲しかったのは金っ……勝利っ……それから……あの人の……そうだ。
だから……怖くない。
怖くない。
死ぬのは怖くないっ……ただ……。
俺は死にたくない……。
そう、死にたくないんだっ……!
死にたく……ない……。
薄れ行く意識の中で聞こえるのは、自分の名を呼ぶ声。
平山は応える。
「安岡……さん……」
そうだ……無意味なんか……じゃない。
なあ、俺……アンタのために……
……死ぬの……か……な……
もがいた手は空を掴む。怒りの形相が、穏やかなものに変わっていく。
平山幸雄の最後であった。
◆◇◆
東京多摩地区山中で発見された身元不明の遺体。
外観はどこにでもいるような、ごく普通の若者。ただし腕には注射針の後がひとつ。
死因はこの注射針からの大量出血によるショック死と断定された。
同僚の知らせを受け、安岡がこれを平山幸雄本人と確認する。
安岡が仰木と共に「鷲巣狩り」をアカギに依頼するのは、その数日後のこととなる――。
了
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